「匂い」「臭い」「香り」は、日常会話でもよく使われる言葉ですが、微妙なニュアンスの違いがあります。
以下に、それぞれの意味・使い方・注意点・対義語をわかりやすくまとめます。
目次
各語の意味とニュアンスの違い
まず最初に、それぞれの違いをグラフにまとめました。
みなさんのイメージと合っているあチェックしてみてくださいね。
区分 | 匂い | 臭い | 香り |
感情 | 中立 | ネガティブ | ポジティブ |
使う場面 | 日常、一般的 | 汚れや腐敗 、汗など | 花、香水、食事など良い印象 |
言い換え | におい | くさいにおい | いいにおい・芳香 |
「匂い」は中立的なので、前後の文脈で意味が変わります。
たとえば「甘い匂い」といえば良い意味ですがが、「汗の匂い」は人によっては不快に感じますね。
また、「臭い」は不快な印象を与えるため、人や物に対して使うときは配慮が必要です。
例えば、「あの人臭い」は失礼な印象になります。
最後に「香り」は、上品な印象を与えるため、ビジネスや文学的な表現でも好まれます。
過剰に使うと「気取りすぎ」と思われることも、、、なくはありません。
それでは、それぞれの言葉の意味と、例文を見ながらより深いところへと掘り下げていきましょう。
匂い(におい)
- そのものから漂ってきて、嗅覚を刺激するもの。「香水の—」「サンマを焼く—」→臭 (にお) い1
- いかにもそれらしい感じ・趣。「都会の—」「生活の—」→臭 (にお) い
by デジタル大辞泉(※1と2を抜粋)
良い匂い・嫌な匂いなど、ネガティブな場合でもポジティブな場合でもどちらにも使え、抽象的な表現にも応用可能です(例:青春の匂い)。
まず「におい」とくればこれですね。
例文
〇実際に感じる場合(ポジティブ)
- 炊きたてのごはんの匂いが、食欲をそそる。
- 祖母の家には、懐かしいお線香の匂いがする。
- 海に近づくと、潮の匂いが強くなってくる。
- 焼きたてのパンの匂いが、通りにまで広がっていた。
〇実際に感じる場合(ニュートラル~ネガティブ)
- 雨が降りそうな、あの土のような匂いがしてきた。
- 部屋に入った瞬間、いつもと違う匂いがした。
- 猫の匂いが部屋に残っていた。
- ラーメンの匂いって嗅ぎ分けることができますか?
〇比ゆ的に感じる場合
- この事件、何か裏の匂いがするな。
- あの話には成功の匂いが感じられた。
- 彼女の文章からは、芸術家としての才能の匂いが漂っていた。
- その提案には、どこか危険な匂いがする。
- 開発中の新作ゲームには、ヒットの匂いがプンプンする。
臭い(くさい・におい)
- 嗅覚を刺激する、不快なくさみ。悪臭。「どぶの—」
- いかにもそのような感じ・気配。特に、好ましくないものについていう。「犯罪の—がする」
by デジタル大辞泉
”不快な”と書かれているように、「におい」と呼ばれるものの中でも、異臭、腐敗臭、体臭などを表すネガティブな言葉です。
基本的にマイナスの意味で使われます。
また、読み方によって文法的にも違いが出てきます。
- 「くさい」と読む場合は形容詞(例:魚が臭い)
- 「におい」と読む場合は名詞(例:変な臭いがする)
例文
〇「くさい」
- 靴を脱いだら、部屋中が臭くなってしまった。
- ゴミ箱の中が臭いので、早く捨ててきてほしい。
- 雨で濡れた犬が臭くて、思わず鼻をつまんだ。
- このドリアンは食べる前からかなり臭い。
〇「におい」
- 台所から何か焦げたような臭いがする。
- この部屋、誰かが香水をつけすぎたような変な臭いがするね。
- 「これまだ食べれそう?」「ん~、なんかが腐ったような臭いがする」
例文
また、実際にある物理的な”くさいにおい”に対して使われますが、下記のように実際には存在しない”におい”についても使われ、表現の幅を拾ててくれます。
〇実際に感じる場合
- この取引、犯罪の臭いがする。
- 記者はその一言に、スクープの臭いを感じ取った。
〇比ゆ的に感じる場合
- あの人のすすめてくることって、いつも胡散臭い感じがする。
- あの発言、なんだか嘘くさいよね。
香り(かおり)
- よいにおい。香気。
- 顔などのにおいたつような美しさ。
by デジタル大辞泉
”よい”というニュアンスがとても強く、「におい」の中でも花を通じた心地よく感じられるときに使います。
上品で詩的な表現に使われやすく、ポジティブなニュアンスです。
花、香水、料理にもよく使われる。
比喩的な表現にも使われる(例:知性の香り)。
例文
〇実際に感じる場合
- 朝の庭に咲くバラの香りが、風に乗って部屋まで届いた。
- この紅茶は、ほんのりとフルーツの香りがして癒やされる。
- 新しい本を開いたときの紙の香りが好きだ。
- 雨上がりの森には、土と葉のやさしい香りが満ちていた。
- 彼女のシャンプーの香りがすれ違った瞬間にふわっと広がった。
〇比ゆ的に感じる場合
- 彼女の言葉には、どこか懐かしい香りがあった。
- 古い手紙からは、青春の香りが立ちのぼるようだった。
- この映画には、人生のほろ苦さと希望の香りが漂っている。
- 彼の詩には、異国の香りが感じられて新鮮だった。
- 新しい時代の香りが、この小さな町にも届き始めている。
対義語(反対語)
では、それぞれの対義語をまとめたいと思います。
ぴったりとはまる言葉は難しいところですが、大体ことあたりになるのではないかと思います。
単語 | 対義語 |
匂い | 無臭 |
臭い | 香しい(かぐわしい)、芳しい(かんばしい) |
香り | 臭い |
においに関する雑学
においにまつわる慣用句・比喩表現
「におい」にまつわる慣用句や比喩表現は、日本語の中でも感覚に訴える面白い言葉が多いです。
特に「臭い」「匂い」「香り」を含む言い回しは、直接的な意味から比喩的な意味まで幅広く使われています。
「臭い」を含む表現(ネガティブが多い)
- 臭い飯を食う=刑務所に入る、服役することの隠語。「臭い飯」とは、監獄で出される粗末な食事のこと
- 臭い物に蓋をする=都合の悪いことを表に出さずに隠しておくことで、問題の根本解決をしない例え
- 胡散臭い=どこか怪しくて信用できないこと
- きな臭い=争いや戦争の気配がする、または何か事件が起きそうな雰囲気
- 匂いを嗅ぎつける=何かの気配や情報を察知する。スキャンダルやチャンスなどによく使われる
「匂い」を含む表現
- 匂わせる=恋愛関係や秘密を、はっきり言わずにSNSなどでそれとなく伝える行為(現代用語として定着)
- 匂い立つような=女性の美しさなどに使われる、詩的な褒め言葉で、上品な色気を表す
- 青春の匂い=若さや初々しさの象徴的な表現
「香り」を含む表現(ポジティブ・上品なニュアンス)
- 香り高い=よい香りの意味から転じて、上品なというニュアンスの意味でも使われることもある
- 知性の香り=知的で上品な印象を与える人や物事への褒め言葉
- 春の香り=季節の変化を感覚的に表現する言い回しで、情緒的な表現として使われる
目に見えないものを”におう”のは日本だけ?
上記の比喩のように、日本では、日本では五感を比喩に拡張する文化が強いです。
- 「味わう」=体験する
- 「見る」=理解する
- 「におう」=感じ取る
曖昧さや余韻を大事にする美意識があり、“匂い立つような…”というように、直接言わずに「感じさせる」表現が好まれます。
また、自然や空気の中に気配を感じる伝統があり、俳句や和歌でも「風の匂い」「季節の香り」など、抽象と感覚の融合が見られます。
このように、「目に見えないものを“におう”という感覚表現」があるのは、日本独自と言われることがありますが、完全に日本だけというわけではありません。
ですが、日本語の“におう”という語感の幅広さ・繊細さ・比喩性の強さは、他の言語と比べてもかなりユニークです。
日本語
「におう」は感覚的な“気配”を察知する言葉
「におい」は本来、嗅覚の対象ですが、日本語では「におう」を「感じ取る」「察する」「気配を読む」感覚にも広げて使います。
- 犯罪のにおいがする
- 裏切りのにおいがする
- 成功のにおいが漂ってきた
- 匂い立つような美しさ
これらは 目に見えない感情や出来事、雰囲気を“嗅覚”で感じ取る 日本語的な感性の表れです。
英語
では、英語での感覚はどうでしょうか?
“smell” や “scent” を比喩的に使うこともありますが、頻度や表現の幅は日本語ほど広くありません。
「怪しい・変だ」と感じるときに“smell”を使うことはありますが、文学的な感覚の余韻は日本語ほど強くないようです。
- Something smells fishy.(何か怪しいぞ)
- I can smell trouble.(トラブルの予感がする)
フランス語
フランス語もときどき嗅覚を比喩に使いますが、美しさや色気に「匂う」を使う表現は少ないようです。
中国語
においの比喩はありますが、日本語ほど情緒的ではない傾向があります。
- 聞到火药味(火薬のにおい=争いの予感)
- 臭味相投(悪党同士は気が合う)
においの強さの単位とは?
においには、「くさい」と感じるにおいや、「かおり」として心地よく感じるにおいなど、さまざまな種類があります。
そして、それぞれのにおいには強さの違いもあります。では、その「においの強さ」は、どうやってはかるのでしょうか?
実は、特に「くさい」と感じるような強いにおい(悪臭)には、ちゃんとした単位=においのものさしがあるんです。
それが「臭気指数(しゅうきしすう)」というものです。
臭気指数は、「このにおいを何倍にうすめたら、におわなくなるか」という考え方で決められます。
この臭気指数は、ゴミのにおいや工場から出るにおいなど、周りに迷惑をかける「くさい」タイプのにおいを調べるときに使われます。
実際、日本の「悪臭防止法」でも使われている、大切な指標です。
では、ここで疑問に思うかもしれません。
「くさいにおい」に単位があるなら、「いいにおい=かおり」にもあるのでは?、と。
でも実は、「かおりには正式な単位はありません」。
その理由は、「かおり」は人それぞれ感じ方がちがう、感覚的で楽しむものだからです。
たとえば、ある香水が好きな人もいれば、強すぎて苦手に感じる人もいますよね。
だから、「かおり」を数字で決めることはむずかしく、言葉で表現するのがふつうです。
ただし、科学的に「どんな香り成分が入っているか」などを調べることはできます。
香水やお茶の世界では、専門家が「フローラル系の香り」「ウッディな印象」などと表現しながら、かおりを比べたり楽しんだりしています。
まとめ
このように、「におい」「臭い」「香り」は、いずれも嗅覚にまつわる言葉ですが、使い方やニュアンスには明確な違いがあります。
また、においにまつわる言葉は日本語において、実際のにおいを超えて感覚・雰囲気・気配を表す比喩としても使われてもいましたね!
この知識が、みなさまの人生に少しでも彩をもたらせてくれることを、祈っております。