スーパーの乾麺売り場に立つと、いつも少しだけ落ち着かない気持ちになります。
棚の上のほうには「パスタ」と大きく書かれた袋があり、その隣には「スパゲッティ 1.6mm」と書かれた袋が並んでいて、中身はどちらも同じような細長い麺なのに、名前だけが違うからです。
この違いを聞かれれば、たいていの人は「パスタが大きいくくりで、スパゲッティはその一種」と答えますし、それで正解でもあります。

ただ、この話をそこで終わらせてしまうのは、正直かなりもったいない。
調べていくと、日本の法令にはスパゲッティの太さがミリ単位で書き込まれていて、しかもその規定は、つい最近まで4つあった名前が2つに減るという静かな変化を経ていました。
イタリアで「スパゲッティより太い麺」を指す言葉が、かつての日本の法令では「いちばん細い麺」の名前として使われていた、という愉快なねじれもあります。
この記事では、そういうあまり書かれていない部分を中心に、両者の関係をほどいていきます。
| 言葉 | 位置づけ | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| パスタ | 総称 | 小麦粉などを練って作る麺・生地の全体を指す言葉 |
| スパゲッティ | パスタの一種 | 一般には細長い棒状の麺。食品表示基準では「1.2mm以上の太さの棒状」または「2.5mm未満の太さの管状」 |
| マカロニ | パスタの一種 | 食品表示基準では「2.5mm以上の太さの管状、またはその他の形状(棒状・帯状を除く)」 |
まず結論から:パスタは「総称」、スパゲッティは「その中の一本」
結論だけ先に言ってしまえば、パスタは小麦粉などの粉を練った食品の総称であり、スパゲッティはその中の一形態です。
四角形と正方形、あるいは犬とシバイヌの関係と言い換えてもよくて、すべてのスパゲッティはパスタですが、すべてのパスタがスパゲッティというわけではありません。
三段階で整理すると混乱しません
頭の中を三段構えにしておくと、この手の話はほとんど迷わなくなります。
いちばん上に「パスタ」という総称があり、その下に「ロングパスタ/ショートパスタ/板状のパスタ」といった形状の大分類があり、さらにその下にスパゲッティ、ペンネ、ラザニアといった個別の名前が並ぶ、という構造で、スパゲッティは三段目の住人にあたります。
なお、よく「パスタは650種類ある」と紹介されますが、イタリアは地方ごとに同じ形のパスタを別の名前で呼ぶ文化なので、数え方しだいで数はいくらでも伸び縮みします。
この数字はあまり真に受けないほうがいい、というのが個人的な感想です。
図で表すとこのようなイメージになります。

そもそも「パスタ」は麺を意味する言葉ではありませんでした
イタリア語の pasta は後期ラテン語の pasta に由来し、さらにさかのぼるとギリシャ語の πάστη にたどりつきます。
もともとの意味は「練り物」「生地」で、英語の paste(ペースト)やフランス語の pâté(パテ)と同じ家系の言葉ですから、語源の段階では細長いかどうかはまったく関係がありません。
イタリアでは今も「生地全般」を指しています
実際、イタリア語の pasta は現在も相当に広い意味で使われていて、パイ生地は pasta sfoglia、クッキーやタルトの生地は pasta frolla と呼ばれます。
食品ですらない使い方もあり、練り歯磨きは pasta dentifricia です。
日本語の感覚で直訳すると「歯磨きパスタ」になってしまいますが、イタリア語話者にとってはごく自然な表現で、むしろ pasta を細長い麺だと思い込んでいる私たちのほうが、言葉をずいぶん狭く使っていることになります。
バールで「パスタをひとつ」と言うと出てくるもの
イタリアのバール(喫茶とバーを兼ねた店)で una pasta と注文すると、多くの場合、カウンターに並んだ小さな焼き菓子が出てきます。
麺料理を期待していると面食らう場面ですが、これも pasta=練り物という原義から素直に伸びた用法で、麺のほうを指したいかどうかはたいてい文脈が引き受けます。
ちなみに、茹でて湯を切りソースなどで和えて食べるパスタ料理には pastasciutta(pasta asciutta)という言い方があり、これはスープ仕立ての pasta in brodo との対比で使われる言葉です。
日本語の「パスタ」は、この広い言葉から麺の部分だけを切り取って輸入したものだと考えると、すっきり腑に落ちます。
日本の食品表示基準は、スパゲッティを「太さ」で定義しています
さて、ここからが本題です。
日本には、スパゲッティの太さを数値で決めた公的なルールが実在します。
食品表示基準(内閣府令)の別表にある「マカロニ類」の規定がそれで、条文はまず「マカロニ類」そのものを、デュラム小麦のセモリナや普通小麦粉などに水を加えて練り、マカロニ類成形機から高圧で押し出し、切断して熟成乾燥したもの、という趣旨で定義しています。
現行条文に残っている名称は2つだけです
そのうえで条文は、形状に応じて特別な名称を使ってよい、と続きます。
ここが多くの解説と食い違うところなのですが、2025年(令和7年)3月28日に公布された改正で個別品目ごとの表示ルールが見直され、現在この規定に残っているのは「マカロニ」と「スパゲッティ」の2つだけです。
| 名称 | 形状の条件 | 該当するパスタの例 |
|---|---|---|
| マカロニ | 2.5mm以上の太さの管状、またはその他の形状(棒状・帯状のものを除く) | ペンネ、フジッリ、ファルファッレ |
| スパゲッティ | 1.2mm以上の太さの棒状、または2.5mm未満の太さの管状 | スパゲッティ、スパゲッティーニ、スパゲットーニ |

かつては「バーミセリー」と「ヌードル」もありました
見直し前の食品表示基準には、これに加えて2つの名称が並んでいました。
1.2mm未満の太さの棒状に成形したものを「バーミセリー」、帯状に成形したものを「ヌードル」と表示できる、という規定です。
この基準に素直に当てはめれば、一般的な1mm前後のカッペリーニは法令上「バーミセリー」であり、フェットチーネやタリアテッレは法令上「ヌードル」でした。
イタリアのパスタの名前には製品ごとの幅があるので、名前そのものに日本の法令の数値が固定されているわけではないのですが、売り場にある実物の多くはそう振り分けられていたことになります。
イタリア料理店で「本日のヌードルはボロネーゼです」と言われたら卒倒しそうですが、制度上はそういうことになっていたわけです。

2024年(令和6年)8月に開かれた消費者庁の検討会の資料を見ると、業界側から「ヌードル」「バーミセリー」の名称規定は削除し、消費者からの問い合わせが多い「スパゲッティ」「マカロニ」は残したい、という要望が出ていたことが分かります。
要するに、日本の売り場でその名前を使う実態がほとんどなくなっていたということでしょう。
翌年の改正でその要望はおおむね通り、条文からは静かに2つの名前が消えました。
ただし、この改正には2030年(令和12年)3月31日までの経過措置が設けられていて、それまでは旧ルールに基づいた表示の商品が流通する可能性があります。
つまり法令のうえではもう消えた名前が、店頭にはしばらく残りうるということで、条文と売り場のあいだに数年ぶんの時差があるわけです。
制度の合理化としては正しいのだと思いますが、「バーミセリー」という、イタリア語を英語読みしたまま化石のように法令に残っていた語形が退場していったのは、雑学好きとしては少し寂しくもあります。
なお食品表示のルールは現在も見直しが続いているため、実務で表示を扱う方は必ず消費者庁の最新の告示・通知をご確認ください。
実は「1.2mm以上2.5mm未満」ではありません
ここは声を大にして書きたいところです。
多くの記事がスパゲッティの定義を「太さ1.2mm以上2.5mm未満」と説明していて、私も最初はそう覚えていたのですが、条文をよく読むとそうは書かれていません。
正しくは、「1.2mm以上の太さの棒状」または「2.5mm未満の太さの管状」です。

つまり上限の2.5mmが掛かっているのは、あくまで管状、ストロー型のほうであって、中身の詰まったふつうの棒状の麺については、条文上、上限にあたる数字がそもそも置かれていません。
そしてこれを裏側から支えているのが、マカロニ側の条文に添えられた小さな括弧書きです。
マカロニの条件は「2.5mm以上の太さの管状又はその他の形状」なのですが、その「その他の形状」には「(棒状又は帯状のものを除く。)」という但し書きが付いていて、どれだけ太くても棒状のものはマカロニになれないよう、あらかじめ道が塞がれています。
上限を持たないスパゲッティと、棒状を受け取らないマカロニ。
この二つが噛み合っているおかげで、市販の「スパゲットーニ」が2.2mm前後あっても、条文の文言に照らせばそれは堂々とスパゲッティのまま、ということになります。
この「上限は管状にしか掛かっていない」という一点は、驚くほど知られていません。
ネット上の解説の多くが二つの数字を並べて「1.2mm以上2.5mm未満」と要約してしまっているせいもあって、私自身、条文を並べて読み直すまで疑ってもいませんでした。
そしてこの規定は「義務」ではなく「許可」です
もうひとつ、たいていの解説で抜け落ちている論点があります。この名称ルールは「こう名乗らなければならない」という義務規定ではなく、「こう表示することができる」という任意規定だという点です。
正式な名称は、あくまで「マカロニ類」
条文の建て付けはこうです。原則としてこの手の乾燥製品は「マカロニ類」と表示する。
ただし、形状が条件に当てはまるものについては「マカロニ」「スパゲッティ」と表示することができる。
したがって日本の制度における正式なカテゴリー名は「マカロニ類」であって、「パスタ」でも「スパゲッティ」でもありません。
細長い麺を作っているメーカーが袋に「マカロニ類」とだけ書いても違反ではない、ということでもあります。実際にそんな売れない書き方をする会社はありませんが、制度の骨格としてはそうなっています。
ただし、生パスタはこの表の外にいます
見落とされがちですが、決定的な前提があります。
マカロニ類の定義には「熟成乾燥したもの」という条件が入っているため、乾燥させていない生パスタは、そもそも「マカロニ類」ではありません。
生麺のフェットチーネも生スパゲッティも、この太さ区分の適用対象外です。
ここまで太さの話をさんざんしておいて申し訳ないのですが、あの数字が意味を持つのは「乾いている状態」だけなのです。
茹でれば麺は水を吸って太くなるので、1.2mm前後の極細パスタも、鍋から上がった瞬間には乾麺のスパゲッティくらいの太さになっています。境界線は、袋の中にしか存在しません。
アメリカの規格と並べると、驚くほど似ています
名前の出身地がそろっていません
イタリア料理の話をしているはずなのに、なぜ日本のルールは「バーミセリー」のような、イタリア語を英語読みした語形を抱えていたのでしょうか。
かつての4区分を並べてみると、その不揃いぶりがよく分かります。
「マカロニ」「スパゲッティ」はイタリア語由来ですが、「バーミセリー」はイタリア語のヴェルミチェッリを英語読みしたもの、そして「ヌードル」に至ってはドイツ語 Nudel を語源とする英語 noodle で、イタリア料理の制度としてはなかなかのキメラ構成でした。

アメリカのFDA規格を横に置いてみる
似た顔ぶれの規格が、アメリカにあります。食品医薬品局(FDA)が定めるマカロニ製品・ヌードル製品の規格、21 CFR Part 139です。
| 区分 | 米国(21 CFR 139) | 日本(かつての食品表示基準) |
|---|---|---|
| マカロニ | 管状で、直径0.11インチ超〜0.27インチ以下(約2.8〜6.9mm) | 2.5mm以上の管状ほか |
| スパゲッティ | 管状または紐状(非中空)で、直径0.06インチ超〜0.11インチ以下(約1.5〜2.8mm) | 1.2mm以上の棒状、または2.5mm未満の管状 |
| バーミセリー | 紐状(非中空)で、直径0.06インチ以下(約1.5mm以下) | 1.2mm未満の棒状 |
名前も、順番も、「管状か紐状か」で切り分ける発想も、かなりよく似ています。数値そのものはインチとメートル法の違いでずれていますが、設計思想は共通しているように見えます。
ただし「ヌードル」の位置づけは違います
ここは正確に書いておく必要があります。
米国規格の「Noodle products」は上の3つと並ぶ第4の分類ではなく別立ての規格で、しかも形ではなく卵の含有量で定義されており、全固形分中に卵または卵黄由来の固形分を5.5%以上含むこと、という条件が置かれています。
その中に noodles のほか egg macaroni、egg spaghetti、egg vermicelli が含まれる、という構造です。
一方、かつての日本の「ヌードル」は卵にはまったく触れず「帯状に成形したもの」とだけ書かれていましたから、名前は共通していても中身は別物だったことになります。
とはいえ「アメリカ由来」と断定はできません
マカロニ・スパゲッティ・ヴェルミチェッリという並びと、太さで区切るという発想の一致は目を引きます。
戦後の日本にスパゲッティを広めたのがイタリアではなく進駐軍だったこと、国産初のスパゲッティ「ボルカノ」は1928年に現在の兵庫県伊丹市で生まれ、その後尼崎市で育ったとメーカーは説明していますが、それが一般に広まったのはやはり戦後の洋食文化の中だったことを考え合わせると、アメリカ経由という筋書きはいかにも収まりよく思えてきます。
ただし、日本の規格をつくるときに米国規格を直接下敷きにした、と示す資料までは今回確認できませんでしたので、ここは「類似がきわめて目立つ」というところまでにとどめておきます。
それでも、私たちが長らく法令の中で「バーミセリー」という妙な語形に出会い続けてきたことの背景を考えるうえで、この一致は十分に示唆的だと思います。
原料をめぐる、日本とイタリアの差
形の話に紙幅を割きましたが、実務的にもっと大きいのは原料の規定で、ここには日伊で明確な落差があります。

※画像はイメージです
イタリア:国内で作る乾燥パスタは、原則デュラム小麦
イタリアには、パスタの原料と名称を定めた大統領令(DPR 187/2001)があります。
通常の乾燥パスタ(pasta secca)はデュラム小麦のセモリナ等から作るものとされ、「pasta di semola di grano duro」といった法定名称が定められていて、イタリア国内で製造する乾燥パスタには原則として軟質小麦粉を使えず、混入が許されるのも3%までと定められています。
ただし国外で製造された軟質小麦使用のパスタをイタリアで販売すること自体が全面的に禁じられているわけではなく、その場合は「pasta di farina di grano tenero」といった販売名称を使うことまで法令が指定しています。
さらに2017年の農業政策省令により、パスタのラベルには小麦の栽培国と製粉国の表示が求められるようになりました。
この義務は延長が重ねられ、少なくとも2026年12月31日までは続きます。
日本:普通小麦粉でも「スパゲッティ」と名乗れます
対して日本の食品表示基準は、マカロニ類の原料として「デュラム小麦のセモリナ若しくは普通小麦粉又は強力小麦等のファリナ若しくは普通小麦粉」を認めています。
つまりデュラム小麦を使っていなくても、条件を満たす形に成形して乾燥させれば「スパゲッティ」と表示できるということです。
もちろん現在市販されている主要ブランドはデュラムセモリナ100%を掲げていて、そこは各社の品質競争になっているのですが、制度としては日本のほうがだいぶ緩い。
しかも日本国内でも、制度によって原料の条件が違います
これも掘ってみて驚いた点でした。日本にはマカロニ類のJAS規格もあるのですが、そちらの品質基準は使える小麦原料をデュラム小麦由来のもの——デュラム小麦のセモリナと、漂白していないデュラム小麦の普通小麦粉——に限っていて、これに卵とトマト・ほうれんそう以外は使わないこと、という条件が付いています。つ
まり任意の品質規格であるJASは原料をデュラム小麦で締めているのに、義務的な表示基準のほうは普通小麦粉を認めているわけで、消費者庁の検討会資料でも、この不一致は業界側の意見としてはっきり書き込まれていました。
品質を保証するための規格と、表示のルールを定める基準とでは、そもそも制度の目的が違います。
とはいえ、同じ「マカロニ類」という言葉を扱いながら、認める原料の範囲がそろっていないというのは、知っておいて損のない事実だと思います。
公的な統計の中では、言葉がまだ揺れています
ここで少し視点を変えます。日常会話では「パスタ」が総称として完全に定着していますが、公的なデータの世界では、事情がもう少し複雑です。
家計調査は2020年に「スパゲッティ」をやめました
総務省の家計調査は、2020年(令和2年)1月の収支項目分類の改定で、品目名を「スパゲッティ」から「パスタ」へ変更しました。
スパゲッティのほかマカロニやペンネなども含む品目である以上、それらを総称するより適切な名称にする、というのが総務省自身の説明です。
世の中の呼び方が「パスタ」に傾いていったのは1980年代後半からですから、統計がその変化に追いついたのは、実に30年以上あとということになります。
一方で、日本標準商品分類のほうをたどると、階層は「食料品、飲料及び製造たばこ → 農産加工食品 → めん・パン類 → めん類 → マカロニ類 → スパゲッティ」のままです。
こちらは平成2年改定という古い分類なので当然といえば当然なのですが、結果として、国の分類の中でも「マカロニ類の下にスパゲッティ」と「パスタという総称」が同居しているという、なかなか味わい深い状態になっています。
数字で見ると、日本は圧倒的にスパゲッティの国です
日本パスタ協会が公表している2025年の統計を見ると、この構図がはっきりします。
国内生産量はスパゲッティが約12.2万トン、マカロニが約2.8万トンで合計約15.0万トン、輸入量はスパゲッティが約15.4万トン、マカロニが約1.0万トンで合計約16.5万トン、そこから輸出の約440トンを差し引いた国内供給量が約31.4万トンとされています。
ペンネもフジッリも人気があるように感じますが、量で見れば圧倒的にロングパスタ、それもスパゲッティの国だと分かります。割合にすると、国内生産では約8割、輸入にいたっては約94%をスパゲッティが占めています。
作る量より、外から入ってくる量のほうが多い
もうひとつ、上の数字には見逃せない点があります。
国内生産が約15.0万トンなのに対して輸入は約16.5万トンで、国内供給量ベースで見ると、およそ52%——半分以上が輸入品という計算になるのです。
「イタリア産」と書かれた袋を手に取るとき、私たちはこの数字をひとつぶん自分の手で積み上げていることになります。
言葉としての逆転劇──かつて総称は「スパゲッティ」でした
制度や統計の話が続いたので、ここからは日本語そのものの中で起きた交代劇に目を向けます。
1980年代までは「スパゲッティ」という呼び方が主流でした
昭和の喫茶店のメニューを思い出してみてください。
「スパゲッティ」の欄にナポリタンとミートソースが並んでいて、「パスタ」という言葉はまず出てきませんでしたし、当時の日本では、イタリアの麺料理といえば「スパゲッティ」という認識が圧倒的でした。
流れが変わったのは1980年代後半、いわゆるイタ飯ブームで、本格的なイタリア料理店が増えてペンネやフェットチーネが紹介されるにつれ、それらをまとめて呼ぶ言葉として「パスタ」が輸入され、定着していったわけです。

ナポリタンを「パスタ」と呼ぶと、なぜか味が変わる
ここは完全に私の感覚の話なので笑って読んでほしいのですが、ナポリタンやあんかけスパはどうしても「スパゲッティ」でないと収まりが悪く、「本日のパスタはナポリタンです」と言われると味まで急に上品になってしまう気がします。
「スパゲッティ」には昭和の洋食の空気が染み込んでいて、「パスタ」には1980年代以降のイタリアンの空気がある。
同じ麺なのに、呼び名のほうが料理のジャンルを引き寄せてしまうのだと思います。
「スパゲティ」か「スパゲッティ」か
食品表示基準の条文も日本標準商品分類も、促音入りの「スパゲッティ」を採用している一方、新聞などの報道記事では促音のない「スパゲティ」を見かけることが多いです。
これは外来語表記の考え方が法令の世界と報道の世界で少しずつ違うというだけのことなのですが、同じ国の中で公式表記が割れている食品というのも、そう多くはありません。
ついでに知っておくと楽しい、パスタの名前の話
制度の話はここまでにして、最後に、調べている途中で思わず声が出てしまった話をふたつだけ書かせてください。

私たちが呼んでいる名前は、ほとんどが複数形です
スパゲッティ(spaghetti)は単数形 spaghetto の複数形で、その spaghetto は「紐」を意味する spago に小さいものを表す指小辞が付いた形です。
つまり語源をたどると「小さな紐たち」になります。同じことがマカロニ(maccheroni)、ラビオリ(ravioli)、ニョッキ(gnocchi)、ペンネ(penne)、フジッリ(fusilli)にも当てはまり、日本語で「スパゲッティを1本」と数えるとき、私たちは複数形を1本と数えていることになります。
イタリア語話者から見れば、かなり奇妙な光景かもしれません。
名前の由来は、意外なほど日用品ばかり
ペンネは penna(羽根ペン)の複数形で、斜めに切った断面がペン先に似ていることから。フジッリは fuso(紡錘)に由来し、糸を紡ぐ道具のねじれた形がそのまま名前になっています。
ヴェルミチェッリは verme(虫)から来ていて、意味としては「小さな虫たち」です。
紐、ペン先、紡錘、虫。台所から見える範囲のものばかりで名付けられているのが、なんとも人間くさくて好きです。
そしてこのヴェルミチェッリという言葉には、もうひとつ面白いねじれがあって、かつての日本の法令では「バーミセリー」=いちばん細い麺でしたが、本場イタリアではヴェルミチェッリは一般にスパゲッティより太いロングパスタを指し、ナポリでは伝統的にこの太さが主役でした。
同じ語源の言葉が、海を渡ると太い側と細い側に分かれてしまう。少なくとも、日本の制度がイタリア語の用法をそのまま写したものではないことを、この一語が静かに物語っている気がします。
まとめ:結局、どう使い分ければいいのか
だいぶ長くなってしまったので、最後は実用的なところに着地させます。
日常会話では、こう考えれば十分です
パスタは総称、スパゲッティはその一種。この理解さえあれば日常生活でまず困ることはなく、細長い麺を漠然と指したいなら「パスタ」、あの直径2mm前後の丸い麺を特定して指したいなら「スパゲッティ」と使い分ければ十分です。
そのうえで、ナポリタンやミートソースのような昭和由来の洋食メニューだけは「スパゲッティ」のほうが自然に響く、というのも実感として付け加えておきます。
そのうえで、覚えておくと差がつくポイント
- 食品表示基準における正式なカテゴリー名は「パスタ」ではなく「マカロニ類」であり、個別の名称は義務ではなく任意で使えるもの
- 2025年3月公布の改正で名称規定は「マカロニ」「スパゲッティ」の2つに整理され、かつてあった「バーミセリー」「ヌードル」は姿を消した(ただし2030年3月31日までの経過措置あり)
- スパゲッティの太さは「1.2mm以上2.5mm未満」ではない。上限の2.5mmが掛かっているのは管状のほうだけで、しかもマカロニ側は「棒状又は帯状のものを除く」と明記しているため、太い棒状はスパゲッティに残る
- 削除前の基準では、1mm前後のカッペリーニは法令上「バーミセリー」、フェットチーネは「ヌードル」だった。イタリアのヴェルミチェッリはむしろスパゲッティより太い麺で、位置づけが逆になる
- 米国のFDA規格(21 CFR 139)との類似は目を引くが、日本が直接下敷きにしたと断定できる資料は確認できていない
- イタリアは国内製造の乾燥パスタに原則デュラム小麦を求める一方、日本のJASは小麦原料をデュラム小麦由来に限り、食品表示基準は普通小麦粉も認めている
- 太さの規定が効くのは乾麺だけ。生パスタは「マカロニ類」の定義から外れる
- 2025年の日本は、国内生産約15.0万トンに対し輸入約16.5万トン。国内供給量ベースで約52%を輸入品が占める
スーパーの棚に戻りましょう。
「スパゲッティ 1.6mm」と書かれた袋を手に取ったら、その数字は日本の法令が定めた区分の中でスパゲッティを名乗る資格を満たしていて、日本で供給されるパスタの半分以上はそうやって海の向こうから来ていて、中の麺は語源をたどれば「小さな紐たち」で、しかも複数形で呼ばれている。
そこまで思い浮かべてから茹で始めると、いつもの13分がほんの少し楽しくなります。
少なくとも私はそうなりました。
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参考にした主な資料
- 消費者庁「マカロニ類に関する個別品目ごとの表示ルールの見直しの検討について」(令和6年8月)、「個別品目ごとの表示ルール」(令和5年11月)、食品表示基準の一部改正(令和7年3月28日公布)関係資料
- 農林水産省「マカロニ類の日本農林規格(JAS 2633)」、農林物資規格調査会「日本農林規格の見直しについて『マカロニ類』」(平成25年3月)
- 日本製麻株式会社「ボルカノ食品事業」
- 日本パスタ協会「パスタレポート」統計、「パスタを知る」
- 米国連邦規則集 21 CFR Part 139(Macaroni and Noodle Products)
- イタリア共和国大統領令 DPR 187/2001、および原料原産地表示に関する2017年農業政策省令
- 総務省統計局「家計調査 収支項目分類の改定について(2020年1月分より)」、日本標準商品分類
※制度に関する記述は執筆時点(2026年8月)の情報にもとづいています。食品表示のルールは改正が続いているため、実務での判断は必ず消費者庁の最新の告示・通知をご確認ください。
