ブランデーとウイスキーとバーボンの違い|実はこの3つ、ライバルではなく「持ちつ持たれつ」の関係だった

バーの棚に並んだ茶色い瓶を眺めながら、「で、結局この3つってどう違うの?」と思ったことのある人は多いと思います。

ブランデー、ウイスキー、バーボン。

どれも琥珀色で、度数が高くて、なんとなく大人の飲み物という顔をしていますね。

この手の疑問に答えている記事はネット上に山ほどあります。

ざっくり言えば「ブランデーは果実から、ウイスキーは穀物から、バーボンはトウモロコシから」という説明で、これは間違ってはいません。

ただ、そこで終わってしまうと、いちばん面白いところを丸ごと見落とすことになります。

というのも、この3つは互いに無関係な競合ではなくて、法律と歴史でがっちり絡み合っているからです。

バーボンの製造ルールがスコッチの味を支えていたり、ウイスキーが世界に広まったきっかけがブランデーの大災難だったり。順を追って見ていきます。

そもそも、この3つを横並びで比べること自体がズレている

ウイスキーとブランデーは対等、でもバーボンだけ一段下

先に構造をはっきりさせておきます。

ブランデーとウイスキーは、原料によって切り分けられた蒸留酒の大分類同士です。

果実から造ればブランデー、穀物から造ればウイスキー。

この2つは対等で、どちらかがどちらかに含まれることはありません。

一方でバーボンは、ウイスキーという大分類の中に入っている一種類にすぎません。

「バーボンとウイスキーの違いは?」と聞かれることがありますが、これは厳密には「柴犬と犬の違いは?」と聞いているのと同じ形の質問です。バーボンは、ウイスキーです。

本当に釣り合うのは「バーボンとコニャック」

じゃあバーボンと同じ階層に立つブランデーは何か。コニャックです。

コニャックはフランス・シャラント県周辺の限られた地域で、指定された白ぶどう品種を使い、決められた蒸留器で2回蒸留したものだけが名乗れる、AOC(原産地呼称統制)付きのブランデーです。

バーボンがアメリカ生まれのウイスキーの一種であるのと同じように、コニャックはフランス生まれのブランデーの一種。

つまり、階層を揃えて比べるならこうなります。

  • 大分類同士:ブランデー ⇔ ウイスキー
  • 銘柄グループ同士:コニャック ⇔ バーボン

「ブランデーとウイスキーとバーボン」という並べ方は、実は「猫と犬と柴犬」に近いですね。

ここを整理しないまま比較表を作っても、頭に入りにくいのは当然なんです。

ざっくり位置関係の早見表

ブランデー ウイスキー バーボン
階層 大分類 大分類 ウイスキーの一種
原料 ぶどうなどの果実 大麦・ライ麦・トウモロコシなど穀物 トウモロコシ51%以上
糖化の工程 不要 必要 必要
代表的な下位カテゴリ コニャック、アルマニャック、カルヴァドス スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、ジャパニーズ ―(これ自体が下位カテゴリ)
熟成樽 種類による(コニャックはオーク樽。フレンチオークが一般的) 種類による(スコッチでは中古樽が中心) 内側を焦がした新樽のみ
法定の最低熟成 コニャックは2年 スコッチ・ジャパニーズは3年 規定なし(詳しくは後述)

原料と製法、その分かれ道は「糖化」というひと手間にある

ブランデー:果実はすでに甘いので、話が早い

ブランデーの原料であるぶどうには、最初から糖分が入っています。

だから潰して放っておけば酵母が糖を食べてアルコールを作ってくれる。それを蒸留すればブランデーです。

工程で言えば「収穫 → 発酵 → 蒸留 → 熟成」。シンプルです。

りんごを使ったブランデーの代表格がカルヴァドス、さくらんぼを使った代表格がキルシュ。原料の果実が変われば、呼び名も性格も変わります。

ウイスキー:穀物は甘くないので、まず糖に変える必要がある

ところが穀物には、そのままではほとんど糖分がありません。

あるのはデンプンです。

酵母はデンプンを食べられないので、先にデンプンを糖に分解してやらなければならない。

これが「糖化」という工程で、麦芽(発芽させた大麦)に含まれる酵素の力を借ります。

だからウイスキーの工程は「収穫 → 糖化 → 発酵 → 蒸留 → 熟成」で、ブランデーより一段階多いです。

この一手間の有無が、両者を分ける本質的な違いです。

原料が違うから工程が違う、というより、工程が違うから原料の性格がそのまま酒の性格になる、と言ったほうが近いかもしれません。

ブランデーの香りが果実的で、ウイスキーの香りが穀物や樽由来なのは、この構造から来ています。

バーボン:トウモロコシと「石灰質の水」から生まれた独自製法

バーボンはウイスキーなので、当然この糖化工程を通ります。

ただしバーボンには、他のウイスキーにはあまり見られない独特の工夫があります。

サワーマッシュ——pHを整え、発酵を安定させるための知恵

ケンタッキー州は石灰岩の地層が豊富で、そこを通った水は硬水になります。

この「ライムストーンウォーター」がバーボンの品質を支えている、という話はよく紹介されますが、この水は中性〜アルカリ性寄りになりやすいとも言われます。

一方、糖化酵素がよく働くのはpH5.4〜5.6あたりの弱酸性とされます。

つまり仕込み水をそのまま使うだけでは、糖化にとって理想的な環境になるとは限らない。

そこで使われるのがサワーマッシュ製法です。前回の蒸留で釜の底に残った液(バックセット、あるいはスティレージと呼ばれます)はpH3.5〜4.5とかなり酸性。これを次の仕込みに戻してやることで、全体のpHを酸性側に寄せるわけです。

加える割合は蒸留所によって異なります。

この製法がもともとpH対策として発明されたのか、それとも発酵の再現性や雑菌対策の中から経験的に定着したのかは、はっきりしません。

ただ結果として、酸性環境は糖化を助け、雑菌の繁殖も抑えてくれる。

日本酒の生酛造りで、乳酸の力を借りて酒母を酸性にし、雑菌を寄せつけないようにするのと発想が似ています。

作っている場所も原料もまるで違うのに、微生物と付き合う人間の知恵は似た形に行き着くんだな、と思うと少し面白いです。

 

法律の条文から読み解く、三者の正体

ここからが、他ではあまり書かれていない部分です。

「原料が違う」で終わらせず、実際に条文がどう書いてあるかを見てみます。

日本の酒税法は、たった一行で線を引いている

日本の酒税法では、ウイスキーとブランデーはこう定義されています。

  • ウイスキー:発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの
  • ブランデー:果実(若しくは果実及び水)を原料として発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの

基本形だけを見れば、大きな線引きは原料が穀物か果実かということですで、産地の指定もなければ、熟成年数の縛りもありません。

(正確には、酒税法上の「ウイスキー」にはこれとは別に混和に関する規定もあり、ウイスキー原酒にアルコールや香味料、色素、水などを加えたものも一定の条件下で含まれます。この点は後ほど「ジャパニーズウイスキー」の話につながってきます。)

ちなみに酒税法には「スピリッツ」というカテゴリもあって、こちらはウイスキーにもブランデーにも焼酎にも当てはまらない蒸留酒の受け皿という位置づけです。

つまりウイスキーとブランデーは”名指しで切り出された専門カテゴリ”、スピリッツは”その他大勢”だという構造を知っておくと、酒売り場のラベル表記が急に読めるようになります。

アメリカの連邦規則は、数字でがっちり縛る

対照的なのがアメリカです。

TTB(アルコール・タバコ税貿易管理局)が所管する連邦規則27 CFRは、バーボンの条件を数値でびっしり指定しています。

  1. アメリカ合衆国内で製造されていること
  2. 原料マッシュのトウモロコシ比率が51%以上
  3. 蒸留時のアルコール度数が160プルーフ(80%)以下
  4. 内側を焦がした新品のオーク樽に、125プルーフ(62.5%)以下で詰めること
  5. 瓶詰め時のアルコール度数が80プルーフ(40%)以上

日本の酒税法が「穀物か果実か」の一行で済ませているのに対して、この細かさ。同じ「酒の定義」でも、国によって思想がここまで違うのかと感心します。

盲点その1:バーボンには最低熟成年数が定められていない

上の5条件をもう一度見てください。熟成年数が入っていません。

「バーボンは最低2年熟成」と書いている解説記事はかなり多いのですが、これは正確ではありません。

2年の熟成義務が発生するのは、ラベルに「ストレートバーボン(Straight Bourbon)」と書く場合です。

単に「バーボン」を名乗るだけなら、極端な話、樽に入れてすぐ出しても法的には成立してしまいます。

もっとも、実際に流通しているバーボンの大半はストレートバーボンなので、結果として「バーボン=2年以上熟成」というイメージが定着している。誤解というより、実態が定義を追い越してしまった例と言ったほうがいいのかもしれません。

ここで誤解しやすいのですが、通常のバーボンにも着色料・香料・ブレンディング材料の添加は認められていません。

連邦規則の表では、他のタイプのウイスキーに認められている添加が、バーボンだけ明示的に除外されています。

スコッチではカラメル色素の使用が認められていることを考えると、この点はかなり厳格です。

つまり「ストレート」という表示が加えているのは、着色料の有無ではなく、2年以上の熟成という時間の条件(と、水以外を加えないという明文化された縛り)です。

盲点その2:バーボンはケンタッキー州の専売ではない

「バーボン=ケンタッキー」というイメージは強烈です。

実際、生産量の約95%がケンタッキー州に集中しているので、間違ったイメージではありません。

ただ、法的な要件は「アメリカ合衆国内」であって、州の指定はどこにもない。

コロラド、ニューヨーク、ワイオミングなどでも、法的に何の問題もないバーボンが造られています。

ケンタッキーの優位は、石灰質の水と寒暖差の大きい気候という条件によるもので、制度によるものではありません。

つまりケンタッキーは、法律で守られているのではなく、実力で勝っている。個人的には、こちらのほうがかっこいい話だと思います。

2021年、日本にもようやく「ジャパニーズウイスキー」の自主基準ができた

もうひとつ、あまり知られていない話を。

2021年2月まで、日本には「ジャパニーズウイスキー」を名乗るための基準が存在しませんでした。

制度上の穴は3つあって、(1)原産国の規定がない、(2)熟成していなくてもウイスキーと名乗れる、(3)ウイスキー以外の醸造アルコールやスピリッツを最大90%まで混ぜられる、という状態。

つまり、海外から買ってきた安い原酒を国内でちょっとブレンドしただけの製品が、堂々と「ジャパニーズウイスキー」として海外で売られていたわけです。

ジャパニーズウイスキーが国際的な評価を得ていた時期だけに、これは相当まずい状況でした。

そこで日本洋酒酒造組合が制定した自主基準がこちら。

  • 原料は麦芽・穀類・日本国内で採水した水のみ。仕込みには必ず麦芽を使う
  • 糖化・発酵・蒸留はすべて日本国内の蒸留所で行う
  • 蒸留時のアルコール度数は95%未満
  • 700リットル以下の木製樽で、日本国内で樽詰めした翌日から3年以上熟成
  • 日本国内で容器詰めし、アルコール度数40%以上
  • 着色はカラメルのみ

注目したいのは、樽の材質を「オーク」ではなく「木製」と書いている点です。

これは意図的で、ミズナラはもちろん、桜や栗といった日本の木材を使う可能性を残してあります。

瓶詰めまで国内に限定する点はスコッチの規定より厳しく、それでいて表現の自由度は残という、よくできた基準だと思います。

ただし、これはあくまで業界団体の自主基準であって法律ではありません。

 

実はこの3つ、ライバルではなく「持ちつ持たれつ」だった

ここからが、この記事でいちばん書きたかったところです。

バーボンの新樽ルールが、スコッチとジャパニーズを支えている

さっきの連邦規則を思い出してください。バーボンは「新品の焦がしたオーク樽」でしか熟成できません。

ということは、一度バーボンを詰めた樽は、二度とバーボンに使えない。

では、その使用済みの樽はどこへ行くのか。

スコットランドと日本です。

スコッチはもともとシェリー樽で熟成するのが主流でした。

ところがシェリー酒の輸送が樽から瓶に切り替わったことで樽の供給が細り、業界は樽不足に直面します。

そこに、アメリカから大量の中古樽が流れ込んできた。

現在ではスコッチウイスキーの約9割がバーボン樽で熟成されているとされています。

これは単なる代用品の話ではありません。アメリカンオークがもたらすバニラや甘い香ばしさが、モルトウイスキーと相性が良かった。私たちが「スコッチらしい」と感じている風味の少なくない部分は、アメリカの法律が生んだ副産物なんです。

バーボンの新樽規制がなければ、今のスコッチの味も、ジャパニーズウイスキーの味も、たぶん違っていた。3つを「別々のお酒」として比べるだけでは、絶対に見えてこない関係です。

そしてスコッチの世界進出は、ブランデーの悲劇から始まった

もう一段さかのぼると、さらに面白い話があります。

19世紀の前半まで、高級蒸留酒の王座に座っていたのはブランデー、とりわけコニャックでした。

社交界の象徴であり、上流階級の酒。それに対してスコッチは、地方の労働者が飲む荒っぽい酒という扱いでした。今の力関係からは想像しにくいですが、当時はそうだった。

フィロキセラ——ぶどうを食い尽くした虫

その構図をひっくり返したのが、1870年代以降ヨーロッパを襲ったフィロキセラというアブラムシの一種です。

ぶどうの根に寄生してこれを枯らすこの害虫は、フランスのぶどう畑を壊滅的に破壊しました。

ワインが足りない。当然、ワインを蒸留して造るブランデーも足りない。

コニャックの生産は崩れ、価格は高騰し、高級蒸留酒の市場にぽっかり穴が空きました。

そこに滑り込んだのがスコッチです。

ちょうど同じ時期、連続式蒸留機の実用化によって軽やかなグレーンウイスキーが造れるようになり、それを個性の強いモルトとブレンドする技術が確立していました。

荒っぽかったスコッチが、上流階級の口にも合う洗練された酒に変わっていたわけです。そして大英帝国の交易網が、それを世界中に運んだ。

要するに、ウイスキーが世界の酒になった背景には、ブランデーの不幸がある。

そしてその100年ほど後には、そのウイスキーがアメリカの法律の副産物である中古樽に依存するようになる。

ライバル同士のように見えて、この3つは歴史的にも制度的にも、互いにもたれかかりながらここまで来ています。

「違い」を語る記事は多いけれど、「つながり」を語る記事は驚くほど少ない。私はこの関係のほうが、よほど記憶に残ると思っています。

 

同じ「12年もの」でも、熟成の進み方は同じではない

天使の分け前——スコットランドとケンタッキーの決定的な差

樽で熟成している間、ウイスキーは少しずつ蒸発していきます。これをエンジェルズシェア(天使の分け前)と呼ぶ、というのは有名な話です。

面白いのはその量が土地によって全然違うことです。

冷涼で湿度の高いスコットランドでは、年間およそ2〜3%。30年寝かせると半分近くが消える計算です。

ところがケンタッキーは夏と冬の寒暖差が激しく、貯蔵庫の中で酒が樽材を出入りする動きが桁違いに大きいです。

最初の1年で10%を超えて減ることもあると言われます。

台湾のような亜熱帯地域だと、さらに激しくなります。

だから、年数表示の読み方も変わってくる

ここから導かれる結論は、けっこう実用的です。

バーボンの12年とスコッチの12年では、熟成の進み方がまるで違う。

新樽で、寒暖差の大きい環境に12年置かれたバーボンは、樽の成分をこれでもかと吸い込んで、色も味も濃く仕上がります。

一方、中古樽で、冷涼な環境に12年置かれたスコッチは、もっと穏やかに変化する。熟成のスピードそのものが違うので、年数だけを横並びで比べても意味がありません。

「◯年ものだから上等」という発想は、産地をまたいだ瞬間に通用しなくなる。これは知っておくと、酒売り場での判断がかなり変わるはずです。

 

名前に残された、三者三様の物語

ウイスキーは「命の水」、ブランデーは「焼いたワイン」

語源の話も少し。

ウイスキーは、ゲール語の「ウシュク・ベーハー(uisge beatha)」=命の水に由来します。さらに遡るとラテン語の「アクア・ヴィテ(aqua vitae)」で、中世ヨーロッパでは蒸留酒全般がそう呼ばれていました。当時の蒸留酒は薬でもあったので、大げさな名前ではなかったわけです。

ブランデーは、オランダ語の「ブランデワイン(brandewijn)」=焼いたワインから。大航海時代、オランダ商人がワインをそのまま運ぶより蒸留して濃縮したほうが効率がいいと気づいたことに由来します。こちらは実務的で、いかにも商人らしいネーミングです。

バーボンは、フランス王家の名を背負ったアメリカの酒

バーボンは、ケンタッキー州のバーボン郡という地名から来ています。

そしてこの郡名は、アメリカ独立戦争でフランスが独立軍を支援してくれたことへの感謝を込めて、当時のフランス王家「ブルボン家」の名を冠したものだとされています。

ここに、ちょっとした皮肉があります。

バーボンという名前は、フランス王室由来の、いわば由緒正しい響きを持っている。ところが中身はどうかというと、原料はトウモロコシという新大陸の穀物で、製法はフランス生まれのコニャック(ぶどう=果実の蒸留酒)とはほぼ正反対です。

名前だけがフランス貴族で、実体は徹底的にアメリカ的な酒なんです。

ついでに言うと、英語のつづりも分かれています。

スコットランド、カナダ、日本の多くは「whisky」、アメリカとアイルランドは「whiskey」。

eが一文字あるかどうかで出自が透けて見える。ラベルを見るとき、地味に楽しいポイントです。

なお、バーボンを最初に造ったのは牧師のエライジャ・クレイグで、樽を偶然焦がしてしまったことがあの香りを生んだ——という逸話がよく語られますが、これは諸説あって確定していません。

伝説として楽しむくらいがちょうどいい話だと思います。

定義を満たしていても、名乗らない酒がある

最後にひとつ、定義の話の締めくくりとして。

ジャック ダニエルは、実は連邦規則が定めるバーボンの条件をすべて満たしています。

トウモロコシ比率も、蒸留度数も、新樽も、全部クリアしている。

それでも同社は「IT’S NOT BOURBON. IT’S JACK(これはバーボンじゃない、ジャックだ)」と言い切り、テネシーウイスキーを名乗り続けています。

テネシーウイスキーは2013年にテネシー州法で定義されており、バーボンとほぼ同じ条件に加えて「テネシー州内で製造すること」と「熟成前にサトウカエデの木炭で濾過すること」が必須とされています。

この濾過工程がチャコールメローイング、通称リンカーン郡プロセスです。

ここで面白いのは、定義を満たすかどうかと、その名を名乗るかどうかは別問題だということ。バーボンと呼べるのに呼ばない。

それは土地のアイデンティティの主張であって、法律の話ではありません。

酒のカテゴリーというのは、条文だけでできているわけではないんだな、と考えさせられます。

 

飲み方の話——ブランデーグラスは、温めるべきか

「手のひらで温める」は、もう古い作法かもしれない

映画に出てくる大きなブランデーグラスを手のひらで包んで温める、あの仕草。

ブランデーの作法として広く知られていますが、実は現在、評価が分かれています。

温めるとアルコールの揮発が進んで香りは立ちやすくなります。

ただ、上げすぎるとアルコールの刺激が前に出てきて、かえって繊細な香りを覆い隠してしまう。

そのため近年は、ステム(脚)を持って手の熱を伝えず、室温に近い18〜20℃くらいで、口のすぼまった細身のグラスを使う飲み方を勧める向きも増えています。

一方でメーカー側は「そもそもブランデーの飲み方に厳格なルールはない」というスタンスで、手のひらで温める飲み方を否定してはいません。

ここは正直、どちらが正しいという話ではないのだと思います。香りを精密に取りたいならステムを持つ、雰囲気ごと楽しみたいなら包んでもいい。

そのくらいの温度感で捉えておけばいいのではないでしょうか。

シーンごとの、ざっくりした使い分け

厳密な決まりがあるわけではありませんが、目安としてはこんな感じです。

  • 香りを主役にしたい静かな夜 → ブランデー。少量をストレートで、ゆっくり。
  • 食事と一緒に、気軽に長く飲みたい → ウイスキー。ハイボールが強い。
  • 甘さとコクを楽しみたい/カクテルにしたい → バーボン。ソーダ割りやオールドファッションドが定番。

もっとも、バーボンをストレートで静かに飲む人もいれば、コニャックをソーダで割る人もいます。作法から入るより、まず飲んでみて自分の好みを探るほうが、たぶん近道です。

 

まとめ

長くなったので、要点を整理しておきます。

  • ブランデーとウイスキーは、果実か穀物かで分かれた対等な大分類。バーボンはウイスキーの中の一種で、階層が一段下。本当に釣り合うのはコニャックとバーボン。
  • 分岐点は「糖化」というひと手間。穀物は甘くないので、先に糖に変える必要がある。
  • バーボンには法的な最低熟成年数の規定がない(新樽での熟成そのものは必須)。2年の義務があるのは「ストレートバーボン」を名乗る場合だけ。なお着色料・香料の添加は、ストレートでなくとも認められていない。
  • バーボンはケンタッキー州限定ではない。95%が集中しているのは実力であって制度ではない。
  • 日本で「ジャパニーズウイスキー」の自主基準ができたのは2021年。法律ではなく業界団体のルール。
  • バーボンの新樽ルールが生む中古樽が、スコッチの約9割を支えている。
  • スコッチが世界に出たきっかけは、フィロキセラによるブランデーの壊滅だった。
  • 天使の分け前の量が土地で違うので、同じ「12年もの」でも熟成の進み方は同じではない。

「違いは何か」から入ると、この3つはただ並列に並んだ別々の酒に見えます。

でも「なぜそう違うのか」「どこでつながっているのか」まで踏み込むと、法律と気候と歴史が一本の線でつながっていることが見えてくる。

次にバーで琥珀色の一杯を頼むとき、その樽がどこから来たのか、なぜその度数なのかを少しだけ思い出してもらえたら、この記事を書いた甲斐があります。