社長・代表取締役・CEO・会長の違い|この中で法律上の役職は1つだけ

会社のえらい人を指す言葉は、社長、代表取締役、CEO、会長と、やたらたくさんあります。

先に結論を言ってしまうと、この4つのなかで法律(会社法)に定められた正式な役職は「代表取締役」だけで、残りの3つは会社が自由につけてよい、いわば社内の呼び名です。

だから「社長なのに代表取締役ではない人」も、「CEOを名乗っているけれど契約のハンコを押す権限がない人」も、法律上は普通に存在できます。

まずは4つの違いを表で整理しておきましょう。

肩書 法律上の役職? 登記される? 中身
代表取締役 ○(会社法349条) ○(住所まで) 会社を代表して契約や裁判ができる、法律上の「会社の顔」
社長 ×(会社が自由に決める) × 社内のトップを指す慣習的な呼び名。多くの会社で代表取締役が兼ねる
CEO ×(アメリカ由来の呼び名) × 最高経営責任者。日本の法律には登場せず、名乗るのは自由
会長 ×(会社が自由に決める) × 社長経験者の名誉職のことも、代表権を持つ現役トップのこともある

よくある役職の順番(ただし法律の決まりではありません)

社内の偉い順をざっくり知りたい人のために、日本企業で一般的な役職の並びも載せておきます。

くり返しになりますが、この順番は各社が勝手に決めている慣習で、法律のどこにも書かれていません。

伝統的な並び 役職 よくある役回り
1 会長 社長の上に置かれる。名誉職のことも、現役トップのことも
2 社長 会社の実務上のトップ
3 副社長 社長の補佐役
4 専務(専務取締役) 社長を助けて、会社全体の業務を見る
5 常務(常務取締役) 日常業務の管理。専務の一段下が通例
6 取締役(平取締役) 会社の経営に関わる法律上の役員。取締役会がある会社ではそのメンバー
7 執行役員 業務執行を担う社内の役職。後で出てくる会社法上の「執行役」とは別物で、これも法律上の役職ではありません

もっとも、会社によっては専務より発言力のある副会長がいたり、そもそも常務を置いていなかったりと、順番も顔ぶれも本当にばらばらです。

だからA社の専務とB社の常務のどちらが偉いかは比べようがなく、この表はあくまで「よく見かける並び」の目安として眺めてください。

表にすると数行で終わる話なのですが、この裏側には「ニセ社長から人を守る条文」や「代表取締役が1人もいない大企業」といった、知れば知るほど面白い仕組みが隠れています。

ここから順番に掘っていきます。

代表取締役──会社の「法律上の顔」

会社を代表するとは、どういうことか

会社は法律上「人」として扱われますが(これを法人といいます)、体を持たないので、自分でペンを握って契約書にサインすることができません。

そこで誰かが会社の代わりに動く必要があり、その権限を法律で与えられたのが代表取締役です。

会社法349条は、代表取締役が会社の業務について「一切の裁判上又は裁判外の行為」をする権限を持つと定めています。

裁判上とは訴訟のこと、裁判外とは契約などの日常的な取引のことで、ようするに銀行からの借入れも、土地の売買も、社員の雇用契約も、会社を代表して結ぶ大もとの権限はこの人に集まっているわけです(もちろん実務では、権限をまかされた社員が個々の契約を結ぶこともあります)。

登記簿には住所まで載る

代表取締役がどれだけ特別な存在かは、登記簿を見るとよくわかります。

会社法911条は、株式会社が登記しなければならない事項を列挙していて、取締役については氏名だけでいいのに、代表取締役だけは氏名に加えて住所まで登記すると定めているんです(911条3項14号)。

会社の登記簿(登記事項証明書)は、手数料を払えば誰でも取得できます。

つまり、どこかの会社の代表取締役になるということは、自宅の住所を全国に公開するということとほぼ同じ意味でした。

それだけ重い責任を負う人物を、取引相手が確認できるようにしておく仕組みなのですが、個人としてはなかなか覚悟のいる話ですよね。

2024年10月から「住所を隠せる」ようになった

この住所公開は長年プライバシーの面で問題視されていて、2024年10月1日に商業登記規則が改正され、所定の登記申請にあわせて申出をすれば、代表取締役の住所を「市区町村まで」の表示にとどめられる制度(代表取締役等住所非表示措置)が始まりました。

たとえば「東京都港区」までは載るけれど、番地から先は出ない、という形です。

裏を返せば、2024年の秋まで、代表取締役として登記された人の住所は、手数料さえ払えば誰でも調べられる情報だったことになります。

起業のハードルの話として、もっと知られていい変化だと思います。

代表取締役は2人以上いてもいい

もうひとつ意外と知られていないのが、代表取締役は1人と決まっていないことです。

2人でも3人でも置くことができて、その場合、原則としてそれぞれが単独で会社を代表できます。

だから「代表取締役社長」と「代表取締役会長」が同じ会社に並んでいても、何もおかしくありません。登記簿の上では、2人とも等しく会社の顔なのです。

 

「社長」が会社法に登場するのは、ニセ社長の条文だけ

表見代表取締役という仕組み(会社法354条)

では「社長」という言葉は、法律の世界でどう扱われているのでしょうか。

会社法には社長を定義した条文がひとつもなく、社長という単語が登場するのは、調べた限り「ニセ社長にだまされた人を守る」ための条文だけです。

条文を読んでみる

その条文が、会社法354条(表見代表取締役)です。原文をそのまま載せます。

株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う。

かみくだくと、こうなります。

代表権のない取締役に「社長」や「副社長」という肩書を会社が名乗らせていた場合、その人が結んだ契約について、事情を知らない相手(善意の第三者)に対して会社は責任を負わなければならない──。

なぜ会社が責任を取らされるのか

社長という肩書の名刺を出されたら、普通は「この人と契約すれば会社と契約したことになる」と信じますよね。

ところが社長という肩書があるだけでは法律上の代表権があるとは限らないので、代表権のない社長と結んだ契約は、理屈のうえでは「権限のない人がした契約」になってしまいます。

それでは名刺を信じた側があまりに気の毒なので、紛らわしい肩書を付けた会社のほうが責任を負いなさい、というのがこの条文の考え方です。

会社法が「社長」に言及する場面が、社長の偉さを定めるためではなく、社長らしき人を信じた取引相手を救うためだったというのは、個人的にかなり好きな事実です。

法律は肩書のきらびやかさには興味がなくて、だまされる人がいないかどうかだけを見ているわけです。

「専務」「常務」は例示から消えた

実はこの条文、2005年にひっそりと変わっています。

会社法の前身にあたる旧商法の262条では、紛らわしい肩書の例として「社長、副社長、専務取締役、常務取締役」の4つが挙げられていました。

ところが2006年施行の会社法354条では、専務と常務が例示から外れ、社長と副社長だけが残ったのです。

専務や常務が必ずしも代表権を連想させる肩書ではなくなった、という時代の変化を反映した改正だとされています。

もっとも例示から消えただけで保護の対象外と決まったわけではなく、専務取締役の肩書に354条を適用した裁判例(2018年・東京地裁判決)もあります。

条文の単語ひとつにも、肩書の「格」の移り変わりが刻まれているんですね。

頭取も、登記簿では代表取締役

社長が法律上の役職でないなら、業界ごとの独特なトップの呼び名も同じ理屈で説明できます。

銀行の「頭取」は会社法のどこにも出てこない慣習的な呼び名で、株式会社である銀行の登記簿を見れば、多くの場合、頭取さんは「代表取締役」として載っています。

持株会社の「グループCEO」や、スタートアップの「ファウンダー」なども同様です。

どんなに立派な呼び名でも、それだけで法律上の代表権が生まれるわけではなく、株式会社なら代表取締役(または後述の代表執行役)、信用金庫なら「代表理事」、医療法人なら「理事長」といった、法律の定めた役職に戻って考えることになります。

 

CEO──アメリカから輸入された「雇われトップ」の発想

取締役会がCEOを「雇う」

CEOはChief Executive Officerの略で、日本語では最高経営責任者と訳されます。

アメリカ生まれの呼び名で、日本の会社法には一度も登場しません。

ただし、単なる英語かぶれの肩書と片づけるのはもったいなくて、背景にはアメリカ型の会社運営の発想があります。

アメリカでは、株主に選ばれた取締役会(ボード)が経営を監督する側、CEOをはじめとするオフィサー(執行役)が実際に経営する側と、役割をはっきり分けるのが基本です。

取締役会がCEOを任命し、成績が悪ければクビにする──監督する人と、される人を分ける仕組みなんです。

一方、日本の伝統的な会社では、取締役会のメンバーである取締役の中から代表取締役を選ぶので、監督する側とされる側が同じメンバーで重なりがちでした。

CEOという言葉の輸入は、この「自分で自分を監督する」構造への反省とセットで進んできたと言えます。

CEO導入の先駆けは、1976年のソニー

では、この肩書はいつ日本に入ってきたのでしょうか。

先駆けとなったのがソニーで、1976年にCEO制を導入し、日本初だったと紹介されることも多い出来事です。

創業者の盛田昭夫氏が会長に就いた年で、アメリカ市場で戦っていたソニーが、向こうの投資家に通じる経営体制をいち早く整えようとした動きでした。

今でこそスタートアップの若者まで当たり前にCEOを名乗りますが、その元をたどると、半世紀前のソニーの挑戦に行き着くわけです。

「代表取締役社長兼CEO」という重ね着

日本企業の名刺でよく見る「代表取締役社長兼CEO」は、よく考えると不思議な肩書です。

日本の法律上の役職(代表取締役)に、日本の慣習的な呼び名(社長)と、アメリカ由来の呼び名(CEO)を重ね着しているからで、名刺の1行に3つの制度の歴史が渋滞していると言ってもいいでしょう。

しかも、CEOを名乗ること自体に法律の縛りはないので、代表権のないCEOも作れてしまいます。

取引や契約の場面で本当に意味を持つのは、登記簿に載っている「代表取締役(代表執行役)」かどうか。名刺のアルファベットより、登記簿の4文字のほうがずっと強いのです。

代表取締役がいない大企業もある

ここまで「法律上の顔は代表取締役」と繰り返してきましたが、最後にちゃぶ台を返すようで恐縮です。

実は、代表取締役が1人もいない大企業が日本に存在します。

会社法には「指名委員会等設置会社」という、アメリカ型に近い会社の形が用意されています。

この形を選んだ会社では、経営を監督する取締役会と、実際に経営する執行役を分離し、会社を代表するのは代表取締役ではなく「代表執行役」になります(会社法420条)。

CEOと社長はどちらが偉い?仕事内容は違う?

では、CEOと社長はどちらが偉いのでしょうか。

結論は「会社ごとに違う」で、アメリカ型の会社ではCEOが経営トップに立ち、President(社長にあたる言葉)を置く場合もCEOの下の役職とするのが一般的です。

一方の日本では、社長がトップのままCEOを兼ねる「社長兼CEO」が多数派なので、2つの言葉はほぼ同じ人を指しています。

仕事内容がきれいに分かれるのは、CEOと社長を別の人に割り当てている会社だけです。

その場合はCEOが長期の経営方針を決め、社長が日々の業務執行を指揮するという分け方がよく見られますが、これも法律ではなく各社の社内ルールにすぎません。

だから「CEOと社長はこちらが上」と一律に言い切っている説明を見かけたら、少し疑ってかかっていいと思います。

そもそも日本では、CEOを名乗る会社自体がまだ少数派です。

帝国データバンクの調査(2025年発表)によると、経営トップの肩書にCEOを使う企業は2024年末時点で1,536社と、調査対象となった約27万社の1%にも届きません(それでも2019年からは1.7倍に増えています)。

しかもCEOの平均年齢は約54歳で、一般の代表取締役より約6歳若いというデータもあり、この響きのいい3文字は、今のところ若い経営者の会社から広がっている途中なんです。

ソニーグループのトップの正式な肩書

その代表例が、CEOの輸入元でもあるソニーグループです。

同社は指名委員会等設置会社なので代表取締役が存在せず、トップの正式な肩書は「取締役 代表執行役 社長 CEO」(2025年4月からは十時裕樹氏)となっています。

日立製作所など、この形を選ぶ大企業はほかにもあります。

「ソニーには代表取締役がいない」と聞くと一瞬ぎょっとしますが、代表執行役が同じ役割を担っているだけで、会社として欠陥があるわけではありません。

雑学クイズに出したくなる話ですよね。ちなみに会社法421条には、代表権のない執行役に「社長」などの紛らわしい名称を付けた場合の規定もあって、ここでも「社長」はニセ社長対策の文脈でしか登場しません。

 

会長──「引退した人」とは限らない

トヨタの会長は代表権を持っている

会長というと、社長を退いた人がおさまる名誉職のイメージが強いと思います。

実際そういう会社も多いのですが、会長も法律上の定義がない呼び名なので、中身は会社によってまったく違います。

わかりやすいのがトヨタ自動車です。豊田章男氏は2023年4月に社長からただの会長ではなく「代表取締役会長」に就きました。

つまり登記簿に載る、契約のサイン権限を持った現役の会社の顔のままなのです。

2026年4月からは近健太氏が社長兼CEOを務めていますが、会長の豊田氏も引き続き代表取締役です。

「会長=ご意見番」という思い込みは、一度捨てたほうがいいかもしれません。

アメリカのChairmanは「会議の議長」

会長を英語にするとChairman(チェアマン)ですが、これも輸入と輸出の間で意味がすれ違っている言葉です。

アメリカのChairmanは正確にはChairman of the Board、つまり取締役会の議長のことで、経営トップであるCEOを監督する会議の進行役という位置づけになります。

だから英語圏では、CEOとChairmanを同じ人が兼ねるべきか分けるべきかが、会社統治の大きな論点になってきました。

日本語の「会長」が持つ、第一線を退いた長老という響きとはずいぶん違う世界です。

同じChairmanの訳語なのに、海を渡ると役割がここまで変わるのは面白いところです。

名刺の肩書は、こう読めばいい

最後に、ここまでの話を実用的な3つのコツにまとめます。

1つめは、契約など法律が絡む場面では、肩書ではなく「会社を代表する権限(または契約をまかされた権限)があるか」を確かめること。

相手が代表取締役や代表執行役であれば、誰でも取れる登記簿で確認できます。

権限をまかされた担当者が契約する場合もあるので登記簿が万能というわけではありませんが、名刺の肩書より何倍も頼りになる手がかりです。

2つめは、社長・CEO・会長の偉さの順番を、会社をまたいで比べないこと。

どれも各社が自由に決める呼び名なので、A社の会長とB社のCEOのどちらが偉いかという問いには、そもそも答えがありません。

3つめは、肩書が立派なのに話がうますぎるときほど、相手の権限を疑うこと。

会社法が「社長」に触れる場面がニセ社長の後始末だったという事実は、肩書を信じすぎてはいけないという、100年以上前から変わらない教訓そのものなんです。

名刺の1行の裏に条文と登記簿の世界が広がっていると思うと、次に名刺交換するときの景色が少し変わって見えませんか。