「海草」と「海藻」の違い|どっちが正しい?見分け方・食べられる種類・栄養まで丸ごと解説

結論から言うと、「海草」は根と茎と葉があって花を咲かせる種子植物で、「海藻」は根も花も持たず、胞子や配偶子でふえる藻類です。

ワカメ・昆布・ひじき・のりはすべて「海藻」であり、食卓に並ぶものはほぼ例外なくこちらだと考えて構いません。

ただ、この一行で片づけてしまうにはもったいないくらい、この2つの言葉には奥行きがあります。

スーパーの棚には「海藻サラダ」と「海草サラダ」が平然と同居していますし、ニュースでは「海草藻場」という聞き慣れない言葉が流れてきますし、調べていくとコンブとアマモの隔たりがアマモとイネの隔たりよりはるかに大きいという、ちょっと信じがたい事実にもぶつかります。

コンブやワカメにいたっては、現在の分類では「植物」ですらありません。

この記事では、まず日常で困らない使い分けと見分け方を押さえたうえで、食べられる海藻の一覧と旬、気になる栄養と食べ方の注意点を公的資料をもとに整理し、そのあとで「海草サラダは誤りだ」という指摘のほうがむしろ不正確である理由や、海の中で生殖細胞を運ぶ“海のミツバチ”、現在知られている世界最大の植物、そしてこの区別がいま脱炭素の現場で金額に直結している話まで、順にご案内していきます。

「海草」と「海藻」の違い早見表

比較項目 海草(かいそう/うみくさ) 海藻(かいそう/うみも)
正体 種子植物(被子植物・単子葉類) 藻類
ふえ方 花が咲き、種子で殖える(地下茎による栄養繁殖もする) 花は咲かず、胞子や配偶子などでふえる(種類によって異なる)
体のつくり 根・茎・葉の区別がある(維管束あり) 区別がない。根に見えるのは「仮根」=固着器
栄養の取り方 根から海底の砂泥中の栄養を、葉から海水中の栄養を吸収する 体の表面全体から海水中の栄養を吸収する
生える場所 典型的には波の穏やかな内湾・干潟の砂泥底(岩礁に生える種もある) 典型的には波あたりの強い岩礁
代表例 アマモ、コアマモ、スガモ、ウミヒルモ、ウミショウブ コンブ、ワカメ、ヒジキ、ノリ、モズク、テングサ、アオサ
食用 日本ではほぼ利用しない 日本では現在およそ50種が食用とされる
日本の種数 従来の分類で約15〜16種(世界では約60〜70種) 約1,500種
英語 seagrass seaweed

漢字がそのまま正体を表しているのが、この言葉の親切なところで、海の「草」だから種子植物、海の「藻」だから藻類ということになります。

判定に迷ったときは根を見るのが早く、砂泥に根を張っていればまず海草、岩にがっちりしがみついていれば海藻だと考えて、ほとんど外しません。

 

「海藻」と「海草」、どっちを使えば正しいのか

おそらく、この記事にたどり着いた方の多くが知りたいのはここでしょう。

答えを先に言ってしまうと、食べ物の話をしているなら「海藻」の一択です。

ワカメも昆布ものりも、ひとつ残らず藻類ですから、そこに迷う余地はありません。

問題は「海草サラダ」という表記のほうです。

ネット上ではずっと「誤字だ」と指摘されてきましたが、私はこの指摘には少し無理があると思っています。

理由は辞書にあります。

辞書には「総称」の語義がいまも生きている

主要な国語辞典で「海草」を引くと語義が2つ並んでいて、ひとつは「海中に生える顕花植物。アマモの類」ですが、もうひとつに「海に生える藻類や草の総称」という説明が載っています。

しかも日本国語大辞典はこの第2義の用例として、鎌倉時代の語源辞書『名語記』(1275年)を挙げています。

つまり「海草=海に生えている植物全般」という使い方には700年以上の歴史があるわけで、生物学が藻類と種子植物をきっぱり切り分けたのは、それよりはるかに後の話にすぎません。

言葉のほうが先にあって、あとから科学が定義を精密にしていった、という順番になっています。

ですから実務的には、場面によって次のように使い分けるのが正確なところだと思います。

場面 推奨表記 理由
ワカメ・昆布・のりなど食材の話 海藻 すべて藻類なので、生物学的に正確
アマモ場・干潟など環境の話 海草(うみくさ) 種子植物を指す専門用語
学術・水産・行政の文書 厳密に書き分ける 分類も算定基準も異なるため
商品名・メニュー表記 海藻が無難 「海草」も誤りではないが指摘を受けやすい
海の植物を漠然と指す日常会話 どちらでも可 辞書に総称としての語義がある

音では区別できないので、現場は訓読みで乗り切っている

厄介なのは、どちらも「かいそう」と読むことです。

同じ原稿に両方が登場する放送や講演では、海藻を「うみも」、海草を「うみくさ」と訓読みで言い分ける方法が使われることがあります。

学術論文や行政資料で「海草(うみくさ)藻場」とわざわざルビが振ってあるのを見かけたら、それは書き手が混同を警戒しているサインだと思ってよいでしょう。

おまけ:千葉の郷土料理「海草」は、中身が海藻

千葉県東部には正月に食べられる「海草(かいそう)」という郷土料理があるのですが、原料はツノマタ・コトジツノマタという紅藻で、これを煮溶かして固め、ネギや鰹節をのせて醤油で食べる、ところてんの親戚のような一品です。

名前は「海草」なのに正体は完全に「海藻」というこの料理がいまも生き残っていること自体、日本語の「海草」がもともと総称として使われてきたことの、いちばん生々しい証拠なのだろうと思います。

 

見分け方|浜辺で拾ったその「かいそう」はどっち?

知識として知っていても、実物を前にすると案外迷うものです。

判定は次の3点で足ります。

1. 根と地下茎があるか

海草は横に這う地下茎からひげのような細い根を出していて、砂や泥をかんでいることも多いのですが、海藻の根元にあるゴツゴツした部分は仮根(付着器)と呼ばれるもので、役割は岩から流されないようにつかまることだけです。

水も養分も吸わず、海藻は体の表面全体から海水に溶けた栄養を直接取り込んでいます。

だから海藻を砂地に植えても育ちませんし、多くの海草は岩の上では根を張れません。

生えている場所が違うのは、体のつくりが違うことの結果というわけです。

ただし北方系のスガモやエビアマモのように、根を岩盤の割れ目に差し込んで岩礁に生育する海草もいるので、「砂なら海草、岩なら海藻」はあくまで典型例として覚えておくのが安全でしょう。

2. 葉に平行の筋が走っているか

いちばん確実なのはこれです。

アマモの葉には先端から根元まで5〜7本の葉脈がまっすぐ平行に走っていて、これは維管束、つまり水と養分の通り道にあたります。

海藻には維管束からなる本物の葉脈はありませんから、ここが決定的な差になります。

ただし「筋のように見えるもの」なら海藻にもあって、身近なところではワカメの中央を縦に走る太い芯(中肋)がそうですし、海外の紅藻には見た目に葉脈らしき筋が走る種も知られています。

見るべきなのは筋の有無そのものではなく、細い線が何本も規則正しく平行に走っているかどうかです。

打ち上げられた「かいそう」を拾ったら葉を光にかざしてみてください。

アマモのような規則正しい平行脈が確認できれば、海草を見分ける有力な手がかりになります。

3. 色と手ざわり

海草はイネやススキに似た、いかにも草らしい緑色をしているのに対して、海藻は褐色・紅色・濃い緑と色が多彩で、ぬめりやゴムのような弾力を持つものが多くなります。

手に取ったときの感触がまるで違うので、何本か触って比べているうちに、だんだん指で判別できるようになります。

ちなみに台風や時化のあとの浜辺は絶好の観察日和で、夏から秋にかけて打ち上げられる漂着物には海藻と海草が混ざって流れ着きますから、根と葉脈を頼りに仕分けていくだけで、そのまま自由研究のテーマになります。

持ち帰って新聞紙にはさみ、押し葉標本にすれば形もきれいに残ります。

 

食べられる海藻の種類一覧|色で3つに分かれます

日本近海には約1,500種の海藻が生育しており、国立科学博物館のデータベースには2017年時点で1,489種が収録されています。

そのうち食用にされているのは、農林水産省の資料では現在およそ50種類とされ、食べられる可能性のあるものまで含めて約100種と数える資料もあります。

海藻を日常的に食べる文化は東アジアを中心に発達したもので、中国・韓国・日本ではいずれも古くから食べられてきましたし、東南アジアにも独自の海藻食があります。

海藻は光合成色素の違いによって褐藻・紅藻・緑藻の3グループに分かれ、食卓の顔ぶれもきれいに分かれるので、覚えておくと売り場での解像度が上がります。

グループ 日本の種数の目安 おもな食用種 特徴
褐藻類 約340〜400種 コンブ、ワカメ、メカブ、ヒジキ、モズク、アカモク、ホンダワラ、マツモ 大型になるものが多く、アルギン酸やフコイダンなどのぬめり成分を含む
紅藻類 約900種 ノリ(スサビノリ)、テングサ、オゴノリ、トサカノリ、フノリ、ツノマタ 日本でもっとも種数が多く、寒天・ところてんの原料になる
緑藻類 約250種 アオサ(ヒトエグサ)、アオノリ、海ぶどう(クビレズタ)、ミル 陸上植物と同じ「緑色植物」の大系統に属する

※種数は資料によって幅があり、分類の見直しによっても変動します。

刺身のつまに添えられている赤や白のひらひらも、その多くは紅藻です。あれは飾りではなく、ちゃんと食べられます。

海藻の旬カレンダー

乾物で一年中手に入るせいで意識されにくいのですが、海藻にもはっきりと旬があって、生の状態で出回る短い時期こそがいちばんおいしい瞬間です。

海藻 旬の目安 ひとこと
ノリ 11月下旬〜4月ごろ その年の最初に摘む「初摘み海苔」は香りと口どけが格別
ワカメ・メカブ 2〜5月 生わかめが並ぶのは春だけで、しゃぶしゃぶにすると鮮やかな緑に変わる
アカモク・マツモ・フノリ 早春 産地の店頭に短期間だけ並ぶ、地元の人の春の楽しみ
ヒジキ 3〜5月 生は渋くて食べられず、水煮して干したものが「干しひじき」になる
モズク 3〜5月 生産量のおよそ98%が沖縄県産
コンブ 7〜9月 夏に採取して天日で干し上げ、旨みを凝縮させる

意外だったのは昆布で、あの重厚な味わいからすっかり冬の食材だと思い込んでいたのですが、採取の最盛期は真夏でした。

北海道の浜に昆布が一面に干し並べられる光景は、たしかに夏の風物詩です。

 

海藻の栄養と、食べ方で気をつけたいこと

海藻は「海の緑黄色野菜」とも呼ばれるように、低エネルギーのわりに食物繊維とミネラルが豊富で、水溶性食物繊維には食後の血糖値の急な上昇を抑える働きが知られています。

現代人に不足しがちな成分でもあるので、日常的に取り入れる価値は十分にあります。

とはいえ、健康にいいからと極端に偏らせると別の問題が出てくるので、ここは公的機関の資料に基づいて落ち着いて整理しておきます。

ヨウ素(昆布に突出して多い)

ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料になる必須ミネラルですが、海藻を食べる文化を持つ日本ではまず不足しません。

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人の推奨量が1日140µg、耐容上限量が3,000µg(妊婦・授乳婦は2,000µg)と定められている一方で、乾燥昆布のヨウ素含有量は突出して高く、製品や使い方によっては少量でも上限に近づいたり超えたりすることがあります。

ここで大事なのは、耐容上限量が「習慣的な摂取量」に対する基準だという点です。

同基準の報告書は、昆布を使った献立では3mgを超えるヨウ素摂取が生じるものの、吸収された昆布由来のヨウ素は2日以内に尿へ排泄されるため、成人であれば連日でない限り問題はないと明記しています。

逆に、海藻類を食べない日本人集団の摂取量が平均73µg/日にとどまるという報告もあり、心配のあまり海藻を避け続けるほうがかえって不足を招きかねません。

気をつけたいのは、昆布のサプリや昆布茶、濃い昆布だしを毎日欠かさず続けるようなケースです。

また甲状腺に持病のある方や妊娠中・授乳中の方は影響を受けやすいため、摂取量については主治医に相談してください。

ヒジキの無機ヒ素

2004年に英国の食品規格庁がヒジキに関する勧告を出して以来、この話題は定期的に蒸し返されるので、事実関係を整理しておきます。

厚生労働省のQ&Aによれば、当時のWHOの暫定的耐容週間摂取量を基準にすると、体重50kgの人が毎日4.7g以上を継続的に食べ続けない限りその値を超えることはなく、日本人の平均摂取量は1日あたり約0.9gと推定されています。

実際に、海藻に含まれるヒ素による中毒被害の報告はありません。

なお、根拠とされたこの暫定値は2011年に国際的な評価機関が「もはや十分に保護的ではない」として取り下げているため、数値そのものは当時の目安である点も、正確を期すなら添えておくべきでしょう。

むしろ実用的なのは調理の話です。

無機ヒ素は水に溶ける性質があるので、農林水産省の調査によれば、乾燥ヒジキの無機ヒ素は「水戻し」で5割程度、乾燥品を直接ゆでる「ゆで戻し」で8割程度、水戻ししてからさらにゆでる「ゆでこぼし」で9割程度まで減らせることが分かっています。

しかも鉄分・カルシウム・食物繊維はいずれの方法でも7割以上残るので、栄養面での損失をそれほど気にする必要もありません。

乾燥ヒジキを水で戻し、戻し水は使わずに調理するという昔ながらの手順が、そのまま合理的な低減策になっているわけです。

現在の公的な立場は「通常の食生活で健康被害が生じたと明確に示すデータはない。ただし特定の食品に偏らず、バランスよく食べることが重要」というものです。

※この項は一般的な情報の整理であり、診断や治療に代わるものではありません。持病や妊娠中など個別の事情がある場合は、医師や管理栄養士にご相談ください。

 

海草と海藻は進化的にもまったく違う|系統樹で見る違い

ここまでは「知っておくと役に立つ」話でした。

ここから先は、調べていて何度も声が出てしまった、個人的にいちばん面白かった部分です。

海草は「海に戻った陸の植物」で、クジラと同じ道をたどった

アマモの祖先は、もともと海にいたわけではありません。

緑藻から進化した植物が陸に上がって根と茎と葉と維管束を手に入れ、花を咲かせるようになり、その完成された陸上植物の一部がふたたび海へ帰っていったものが海草です。

これは陸生哺乳類が海に戻ってクジラやイルカになったのとまったく同じ筋書きで、北海道大学の研究室も海草の進化をクジラ・イルカになぞらえて説明しています。

海草が花を咲かせ、種子をつくり、根から養分を吸うという、海の生き物としては明らかに不自然な性質を持っているのは、陸で身につけた装備を抱えたまま海に帰ったからにほかなりません。

系統的には海草はイネやユリと同じ単子葉植物ですから、アマモはコンブよりもあなたが食べる米に近いということになります。

そう思って見ると、あの細長い葉がまるで違って見えてきます。

海藻は「一つの系統」ではない──コンブは植物とは別系統

もっと驚いたのは海藻のほうでした。紅藻・緑藻・褐藻をまとめて「海藻」と呼んでいますが、じつは海藻は一つの系統を表す分類群ではありません。

緑藻(アオサ、海ぶどう)と紅藻(ノリ、テングサ)はともに、陸上植物を含むアーケプラスチダという大きな系統に属している一方で、褐藻(コンブ、ワカメ、ヒジキ、モズク)はストラメノパイルという別の系統に属しており、その仲間には珪藻や、ミズカビなどの卵菌が含まれています。

つまりコンブやワカメは、いわゆる植物界の外側にいる生き物だということになります。

褐藻の葉緑体(色素体)は、紅藻系の藻類を細胞内に取り込んだ二次共生に由来すると考えられていますから、緑っぽくて光合成をするから同じ仲間に見えるだけで、中身の系譜はまるで別物だったわけです。

ついでに言うと、陸上植物にいちばん近い現生の藻類も、アオサのような海の緑藻ではありません。

分子系統の研究では、池や水路にひっそり暮らす接合藻(ホシミドロなどの仲間)が陸上植物にもっとも近縁とされています。

海の緑藻はあくまで「同じ緑色植物の大きなグループに属する親戚」であって、直系の先祖というわけではないのです。

距離感を並べてみると、次のようになります。

組み合わせ 系統的な距離
アマモ(海草)とイネ 比較的近い(どちらも単子葉植物。コンブよりははるかに近縁)
アマモ(海草)とアオサ(緑藻) 遠いが、同じアーケプラスチダ
アマモ(海草)とコンブ(褐藻) スーパーグループが違う=真核生物レベルの他人
コンブ(褐藻)と珪藻・ミズカビ 同じストラメノパイル=親戚

「海草と海藻の違い」は、たった一文字の漢字で、イネとカビの違いに匹敵するほどの断絶を表現していることになります。

日本語もなかなか大胆なことをやっているものです。

ちなみに、日本の海草は何種類なのか

従来の資料では日本の海草はおよそ15〜16種とされてきましたが、この数字は分類体系の見直しでけっこう動きます。

2020年に刊行された『日本海草図譜[改訂版]』では、汽水域に常在する“準海草”まで海草として扱う最新の分類にもとづき、1目5科12属26種2亜種1変種4雑種が収録されました。

世界の海草も約60種と紹介されることが多い一方で、70種あまりと数える資料もあり、どこまでを海草と呼ぶかによって数え方に幅が出ています。

 

「海草は食べられない」も、実は正確ではありません

多くの解説記事は「海草は食用にしない」と書いて終わりますが、これも正しくは「日本の現代の食卓には上がらない」という意味にすぎません。

そもそもアマモは漢字で甘藻と書き、名前の由来は地下茎を噛むとほのかに甘いことにあります。

別名の「アジモ(味藻)」も同じ発想ですから、誰かが実際に口に入れて確かめたからこそ、この名前が残っているわけです。

名前そのものが食べた記録なのだと気づいたときは、少し感動しました。

世界に目を向ければ実例もあります。

メキシコ・カリフォルニア湾沿岸の先住民セリ族(コムカーク)は、アマモの種子を集めて粉にし、重要な食料として利用してきたことが民族植物学の調査で報告されていますし、北米北西海岸のサリッシュ族やハイダ族なども、海草の種子や茎の基部を利用してきました。採った海草を束ねて油に漬けて生食したり、種子を乾燥させて保存食にしたり、祭りの席で食べたという記録も残っています。

そして人間が食べなくても、海草は立派な食料資源です。

ジュゴンやアオウミガメの主食であり、日本ではハクチョウがアマモを食べますから、アマモ場が「海の牧草地」と呼ばれるのはそのままの意味だということになります。

 

海の中にも“ミツバチ”がいた──動物が海草の花粉を運ぶ

海草が花を咲かせるなら、花粉はどうやって運ばれるのでしょうか。

長らく答えは「水流だけ」とされてきました。陸の風媒花に相当する水媒で、海に送粉者はいないというのが常識だったのです。

ところが2016年、メキシコ国立自治大学の研究チームが発表した実験がこの常識をひっくり返しました。

対象になったのは、カリブ海に生えるリュウキュウスガモ属の海草 Thalassia testudinum(英名 turtle grass)です。

この海草の雄花は夜になると開き、粘液に包まれた花粉を放出します。

夜は小型甲殻類など無脊椎動物が活発に動き回る時間帯なので、研究チームが水流を完全に止めた水槽に雌雄の花と小動物をいっしょに入れてみたところ、動物たちが花を訪れ、粘液ごと花粉を体につけて雌花の柱頭まで運びました。

柱頭では花粉管が伸びており、受粉はきちんと成立していたのです。研究チームはこの現象にzoobenthophily(動物底生媒)という新語を与え、報道は「海のミツバチ」と書き立てました。

そして、その後さらに驚く発見が続きます。2022年には紅藻でも、小型の甲殻類(等脚類の一種 Idotea balthica)が雄性生殖細胞を体につけて運び、受精を助けることがサイエンス誌に報告されました。

実験では、この甲殻類がいる水槽の受精成功率が、いない場合のおよそ20倍に達しています。

舞台となった紅藻 Gracilaria gracilis は、日本で刺身のつまなどに使われるオゴノリと同じ属の仲間です。

海藻には花も花粉もないので厳密には「受粉」ではありませんが、動物が生殖細胞を運んで繁殖を助けるという点ではよく似ています。

海の中で動物が植物や藻類の繁殖を手伝う現象は、どうやら海草だけのものではなかったわけで、しかも紅藻の系統は陸上植物よりはるかに古いことから、「送粉」という関係そのものが陸より先に海で生まれていた可能性まで議論されはじめています。

 

現在知られている世界最大の「植物」は、木ではなく海草でした

地球最大の植物といえばセコイアの巨木を思い浮かべる方が多いはずですが、2022年、現在知られている世界最大の植物とみられる個体が海草から報告されました。

西オーストラリア大学とフリンダース大学の研究チームが、世界遺産シャークベイの海草 Posidonia australis を遺伝子解析したところ、1万8千の遺伝マーカーを調べた結果、広大な草原の全体がたった1個体のクローンだったことが判明したのです。

  • 広がり:約200平方キロメートル、端から端まで約180キロメートル
  • 年齢:少なくとも4,500年
  • 出発点:たった1粒の種子から発芽した1本の実生
  • 特徴:染色体を通常の2倍持つ倍数体で、これが極端な塩分と水温の変動に耐えられた要因と考えられている

地中海のポシドニア(Posidonia oceanica)には、さらに古く数万年級と推定されるクローンも知られています。

砂泥の中に地下茎を伸ばし、栄養繁殖によって自分のコピーを増やし続ける仕組みが、これほど巨大な一個体を成立させたわけです。

 

いま、この区別が「お金」になっています──ブルーカーボン

「海草と海藻の違いなんて雑学でしょう」という認識は、2020年代に入って完全に古くなりました。

いまや両者の区別は、脱炭素の現場で数字と金額に直結する実務事項になっています。

海洋生態系が吸収・貯留する炭素はブルーカーボンと呼ばれ(陸の森林などによるグリーンカーボンに対する概念です。

2009年の国連環境計画の報告書で提唱されました)、日本の関係省庁の整理では、ブルーカーボン生態系は①海草藻場、②海藻藻場、③湿地・干潟、④マングローブ林の4つに分けられています。

①と②がわざわざ別立てになっているのは、丁寧さの問題ではなく、炭素を貯め込むメカニズムがまるで違うからです。

海草藻場 海藻藻場
生育基盤 砂泥底(根と地下茎を張る) 岩礁(仮根で固着する)
主な貯留経路 枯葉や有機物が足元の泥に埋没し、その場で長期貯留される ちぎれて流出し、深海へ沈降する。または難分解性の粒子となって沿岸に堆積する
単位面積あたりの貯留能力 高くなるケースが多い 面積あたりでは劣るが、生産量そのものが大きい

海草は「その場に埋める」タイプ、海藻は「よそへ運ぶ」タイプで、同じ藻場でもCO2の行方がまったく違うということです。

日本には藻場・干潟の保全活動によるCO2吸収量を認証するJブルークレジット®という制度があり、認証プロジェクトは2020年の開始時点で1件・22.8トンでしたが、2022年には21件・3,733.1トンへと急拡大しました。

国土交通省も「ブルーインフラ」として全国で整備を進めています。算定ガイドラインも申請書類も認証結果も海草藻場と海藻藻場を区別して記載しますから、実際の算定でも両者は別のものとして扱われているわけです。

 

海藻側のスター話題|日本人の腸内細菌と海苔

海草の話が続いたので、海藻側の有名な研究にも触れておきます。

2010年、フランスの研究チームがネイチャー誌に発表した論文が世界を驚かせました。

海苔に多く含まれる多糖類ポルフィランはヒトの消化酵素では分解できないのですが、海苔に付着する海洋細菌が持つ分解酵素「ポルフィラナーゼ」の遺伝子が、日本人の腸内細菌から見つかったのです。

比較対象となった北米の人々からは検出されませんでした。

研究チームは、海苔を生で食べる習慣を通じて海洋細菌が腸に届き、そこで遺伝子の水平伝播が起きた可能性を指摘しています。食文化が腸内細菌を書き換えた痕跡だと考えると、なかなかロマンのある話です。

ただし注意も必要で、この研究は「海苔を消化できるのは日本人だけ」というキャッチーな形で広まりましたが、その後の研究では海藻多糖を分解する遺伝子が日本だけでなく中国・韓国など東アジアに広く分布することが報告されています。

地域差はあってもゼロか百かではない、というのが現在の理解ですから、引用するときはこの但し書きまで添えると精度が上がります。

ついでにもうひとつ。日本の食卓の定番であるワカメは、船のバラスト水などを介して世界中に広がり、2001年に「世界の侵略的外来種ワースト100」に選ばれています。

日本では食材、海外では駆除対象というわけで、海藻をめぐる評価は国によってここまで違うものかと思わされます。

「どっち?」クイズ10問

ここまでの知識があれば判定できるはずです。海草(うみくさ)か、海藻(うみも)か、名前だけを見て考えてみてください。

No. 名前 答え ひとこと
1 モズク 海藻(褐藻) 「モ」がついても藻類
2 アマモ 海草 花が咲き、種子で殖える
3 ヒジキ 海藻(褐藻) コンブ・ワカメと同じ仲間
4 スガモ 海草 北方系で、岩礁にも生育する海草
5 テングサ 海藻(紅藻) ところてん・寒天の原料
6 ウミヒルモ 海草 小さな小判型の葉をつける
7 海ぶどう(クビレズタ) 海藻(緑藻) あの粒々も含めて巨大な一つの細胞
8 ホンダワラ 海藻(褐藻) 「藻」の字のとおり
9 ウミショウブ 海草 南西諸島に分布し、雄花が水面を漂って受粉する
10 アオサ 海藻(緑藻) 紅藻や褐藻より陸上植物に近い系統

ポイントは、「モ」がついていても海草とは限らず、海藻とも限らないことです。アマモ・スガモは海草ですが、ホンダワラ・マツモは海藻ですから、名前では判断できません。

根があるか、花が咲くか。

定基準はこの2つだけです。

 

よくある質問

Q. わかめは海藻ですか、海草ですか?

海藻です。褐藻類に属し、根も花もなく、胞子や配偶子によってふえます。昆布、ひじき、もずく、のり、あおさなども、すべて海藻です。

Q. 「海草サラダ」と書いてある商品は間違いですか?

生物学の用語としては中身と食い違っていますが、日本語の表記としては誤りとは言い切れません。国語辞典には「海草=海に生える藻類や草の総称」という語義があり、その用法は鎌倉時代の文献にまでさかのぼります。ただし書き分けが浸透した現在、商品表示としては「海藻サラダ」のほうが無難でしょう。

Q. 海草は食べられますか?

毒があるわけではありません。アマモは「甘藻」の名のとおり地下茎に甘みがあり、海外には種子や茎の基部を食用にしてきた民族もいます。ただし日本では食材として流通しておらず、多くの海草は保護対象の藻場を形成しているため、勝手に採取するのは避けてください。

Q. コンブは植物ではないのですか?

現在の分類ではストラメノパイル(不等毛生物)というグループに属し、いわゆる植物界には含まれません。珪藻や卵菌と同じ系統で、葉緑体は紅藻系の藻類を取り込んだ二次共生に由来すると考えられています。

Q. 「藻場(もば)」はどちらを指しますか?

両方を含む言葉です。そのため専門的には「海草藻場」「海藻藻場」と明示して区別します。

Q. ワカメや昆布の根は、なぜ栄養を吸わないのですか?

海藻には維管束(水や養分の通り道)がなく、体の表面全体から直接海水の栄養を取り込むためです。根に見える部分は流されないための固着器で、機能としてはアンカーに近いものだと考えてください。

Q. 海藻は毎日食べても大丈夫ですか?

常識的な量であれば問題ありません。ヨウ素の耐容上限量は習慣的な摂取量に対する基準であり、昆布を使った献立で一時的に超えることがあっても、連日でなければ成人では問題ないとされています。ただし昆布のサプリや濃い昆布だしを毎日大量に続けるのは避けたほうがよく、甲状腺に持病がある方、妊娠中・授乳中の方は主治医にご相談ください。

Q. 海草と海藻、英語では区別されますか?

されます。海草は seagrass、海藻は seaweed で、英語では綴りも語感も違うため日本語のような同音の混乱は起きません。この混同は「かいそう」という読みを共有する日本語ならではの現象だといえます。

 

まとめ

  • 海草は種子植物で、根・茎・葉があり、花を咲かせて種子で殖えます。主に砂泥底に生え、日本では従来の分類で15〜16種ほどとされてきました。
  • 海藻は藻類で、根はなく仮根で岩に固着し、胞子や配偶子によってふえます。日本には約1,500種が分布し、現在およそ50種が食用にされています。
  • 食べ物の話なら表記は「海藻」で確定ですが、「海草」を総称として使う用法にも700年の歴史があり、頭から誤りとは言えません。
  • 見分けるコツは、根があるかどうかと、葉に平行の葉脈が走っているかどうか。台風のあとの浜辺は絶好の観察日和です。
  • 海藻は一つの系統ではなく、緑藻・紅藻がアーケプラスチダに属する一方、褐藻(コンブ・ワカメ)はストラメノパイルという別系統に属しています。
  • 動物が生殖細胞を運ぶ海の“送粉”、現在知られている世界最大の植物、ブルーカーボンの算定区分。いずれも海草と海藻を区別してはじめて見えてくる世界です。

次に「かいそう」という言葉を聞いたとき、それが藻なのか草なのかを一瞬だけ考えてみてください。たった一文字の違いの向こう側に、数億年分の進化の物語が広がっています。

 

■主な参考資料

  • 厚生労働省「ヒジキ中のヒ素に関するQ&A」「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
  • 農林水産省「食品中のヒ素に関するQ&A」「ヒジキに含まれるヒ素の低減に向けた取組」「にっぽん伝統食図鑑(海藻製品)」
  • 内閣府 食品安全委員会「ヒジキに含有されている無機ヒ素について」
  • 環境省ほか ブルーカーボン関係省庁連絡会議「我が国におけるブルーカーボン取組事例集」
  • 国土交通省港湾局「ブルーカーボン/ブルーインフラ」
  • 国立科学博物館「日本の海藻」データベース
  • 大場達之・宮田昌彦『日本海草図譜[改訂版]』北海道大学出版会(2020)
  • Hehemann et al., Nature 464 (2010)
  • van Tussenbroek et al., Nature Communications 7 (2016)
  • Edgeloe et al., Proceedings of the Royal Society B (2022)
  • Lavaut et al., Science 377 (2022)

「似て非なる言葉」の一覧はこちら