5Gは世界を変えた? 次に来る6Gと、5つの次世代通信技術

「5Gで世の中が変わる」と、あれほど繰り返し言われていたのはついこの間のことでした。

2020年の春、キャリア各社が一斉にサービスを開始したとき、テレビCMも新聞広告も、判で押したように「2時間の映画が数秒でダウンロードできる」と語っていたのを覚えている方も多いと思います。

それから六年が過ぎた今、あなたのスマートフォンの画面には確かに「5G」と表示されているでしょう。

けれど、世の中が変わったという実感は、正直なところどれくらいあるでしょうか。

この記事では、まずその居心地の悪い問いに正面から向き合ってみます。

そのうえで、実は5Gが静かに達成していた成果を掘り起こし、最後に「次に来る技術」の正体をお話しします。

結論を先に少しだけ漏らしておくと、次に来るものは「6G」という一つの名前ではありませんし、そもそも「もっと速く」という方向だけでもありません。

※本記事の情報は2026年8月時点のものです。標準化や各社のサービス状況は今後も動きますので、日付とあわせてお読みください。

 「5Gが世の中を変える」と言われた、あの熱狂を振り返る

約束されていたのは、三つの性能でした

5Gの説明を一度でも読んだことがある方なら、三つのキーワードを目にしているはずです。

専門の世界ではそれぞれ eMBB、URLLC、mMTC という略語で呼ばれていますが、名前を覚える必要はまったくありません。

大事なのは、この三つが「まったく性格の違う要求」だったという点で、ここに後の話の伏線がすべて仕込まれています。

高速大容量 ── 2時間の映画が数秒で

最も宣伝されたのがこれでした。

国際規格IMT-2020で示されたピーク速度の目標は下り20Gbpsとされ、4Gの十数倍から二十倍という数字が並びました。

ただし、この「規格上の目標値」という但し書きが、後々じわじわと効いてきます。

超低遅延 ── 遠隔手術と自動運転の夢

無線区間では1ミリ秒級の低遅延が目標として掲げられました。

ここは誤解されやすいところで、スマートフォンから遠くのサーバーまで往復して1ミリ秒という意味ではありません。

あくまで理想的な条件下での無線部分の目標値です。

当時の資料には、東京の医師が北海道の患者を手術する、車同士が会話しながら交差点を通過する、といった未来図が必ず添えられていましたが、これらはいずれも「電波が届いた後の話」がとてつもなく難しい分野で、通信が速くなっただけでは実現しません。

多数同時接続 ── 1平方キロメートルに100万台

1平方キロメートルあたり100万台のデバイスをつなげる、というのが5Gの三つめの約束でした。

街中のセンサー、自動販売機、農地の土壌計、あらゆるモノがネットにつながる世界。

この約束だけは、実はいま静かに、しかし確実に形になりつつあります。後半でくわしくお話しします。

それで、実際のところどうなったのでしょうか

ミリ波の使用率は0.2%でした

ここからが、あまり大きな声では語られていない部分です。

5Gの高速性能を本当に引き出すには「ミリ波」と呼ばれる28GHz帯のような高い周波数が必要になるのですが、総務省の5Gビジネスデザインワーキンググループに提出された実態調査では、ミリ波の実際の通信での使用率はわずか0.2%にとどまっていました。

東京大学大学院工学系研究科と村田製作所が2025年5月に出したプレスリリースでも、この0.2%という低利用率が課題として引用されています。

なお、この0.2%はリアルタイムの最新値ではなく、総務省の調査時点の数字です。

理由は身も蓋もなくて、周波数が高い電波は直進性が強く、建物や壁、人体などによる遮蔽を受けやすいからです。

降雨による減衰の影響も加わります。

基地局を大量に置かなければエリアが埋まらず、置いたところで対応端末が少ない。

日本でシェアの大きいiPhoneの国内モデルがミリ波に対応してこなかったことも、普及が進みにくかった一因と考えられます。

端末がないから基地局を建てない、基地局がないから端末が対応しない。教科書に載せたいくらい見事な悪循環です。

それでも5Gは「失敗」ではありません

とはいえ、これを失敗と呼ぶのは早計でしょう。

総務省が2026年7月に公表した整備状況によれば、5Gの人口カバー率は2025年度末(2026年3月末)の時点で98.6%まで到達しました。

神奈川、大阪、沖縄などでは99.9%に達しています。電車の中でも、地下街でも、動画が止まらないことがもはや当たり前になりました。

「速くなった」という感動がないのは、「遅くて困る」という記憶のほうが先に消えてしまったからです。

インフラというのは、成功すればするほど誰にも気づかれなくなる、そういう宿命を背負っています。水道の蛇口をひねって水が出ることに、私たちはいちいち感動しません。

他ではあまり語られない、5Gが本当に変えたもの

ネットワークが「装置」から「ソフトウェア」に変わりました

5Gを速度の物差しだけで測ると、どうしても物足りない結論にたどり着いてしまいます。

けれど視点を通信事業者の設備側に移した瞬間、この六年間はまったく違う顔を見せはじめます。

ここが、多くの解説記事がすっぽり抜かしてしまうところです。

スタンドアロン(SA)化で、ようやく本番が始まった

実は日本で最初に始まった5Gは、コア設備の部分を4Gから借りて動く「ノンスタンドアロン(NSA)」という、いわば仮免許のような方式でした。

5Gの本来の設計思想が発揮されるのは、コアまで丸ごと5G専用にした「スタンドアロン(SA)」に移行してからです。

そしてこのSA化が本格的に進んだのは、なんとサービス開始から五年も経ったここ最近のことでした。

KDDIは2025年度第1四半期の時点で50%前後だったSAの人口カバー率を急速に広げ、2026年3月末までに90%超を達成しました。

ソフトバンクも東名阪から札幌、福岡、仙台へとエリアを広げています。

つまり、私たちが「5Gって思ったほどじゃないね」と言っていた期間の大半は、まだ本番前だったわけです。

この事実を知ったときは、ちょっと拍子抜けすると同時に、少しだけ胸が高鳴りました。

ネットワークスライシングという、目に見えない発明

SA化によって可能になった技術の中で、いちばん面白いのがネットワークスライシングです。

ひとつの物理的な通信網を、ソフトウェア的に何本もの仮想的な通信網へ切り分けて、それぞれに別々の品質を割り当てるという考え方になります。

混雑したスタジアムの中で、一般の来場者の通信とは完全に分離された放送用の回線を確保する、といったことが現実にできるようになりました。

実際、TBSテレビは2025年11月の国立競技場でのサッカー日本代表戦で、KDDIが商用化したスライシングを使って映像を伝送しています。

中継車も専用回線もなしに、数万人が一斉にスマートフォンを使っている場所から生中継が飛ぶ。派手さはありませんが、これは放送の現場にとって革命に近い出来事でした。

そして2026年3月26日には、NTTドコモとNTTドコモビジネスが法人向けの「5Gスライシング」の商用提供を開始しています。

混雑時でも安定した通信を確保できる仕組みが、いよいよ企業の手に届くところまで来たわけです。

主役は、スマホから工場へも広がりつつあります

ここで注意しておきたいのは、5Gがすでに産業のものになった、と言い切るのは正確ではないという点です。

GSMAなど業界側の議論を見ても、5Gのこれまでの収益は主として消費者向けが牽引しており、企業向けの本格的なマネタイズはまだ期待ほどの規模には達していません。

それでも、5Gが当初から狙っていたもうひとつの大きな市場が、工場や物流、社会インフラであることは変わりません。

工場の無線化、ローカル5Gによる自社専用網、建設機械の遠隔操作といった領域では、「遅延が読める」「品質が保証される」という性質が金銭的な価値に直結します

。私たち一般利用者にとって通信品質は「快適さ」ですが、産業にとっては「歩留まり」であり「安全率」なのです。

この温度差こそが、5Gの評価が語る人によって極端に割れる原因なのだろうと考えています。

なぜ「もっと速く」だけがゴールでなくなったのか

人間の感覚には、はっきりした上限があります

ここで少し寄り道をさせてください。

2006年にペンシルベニア大学の研究者たちが発表した有名な推定によれば、人間の網膜が視神経を通じて脳へ送っている情報量は、およそ毎秒1000万ビット、つまり10Mbps前後だとされています。

もっともこれは動物の網膜神経節細胞の測定をもとに人間へ外挿した推定値ですし、脳の処理を単純な通信路と同一視するのは乱暴でしょう。

もちろん、網膜の情報量と回線速度をそのまま比べることはできません。

映像の圧縮、複数視点の伝送、XRや空間映像、クラウド側での処理、先読み、複数端末の同時利用と、その間にはいくらでも要素が挟まります。

それでも、スマートフォンで動画を見るという従来型の使い方に限れば、回線速度を何十倍にしたところで人間が感じる差は次第に小さくなっていく。

3Gから4Gへの進化には「静止画の世界から動画の世界へ」という質的な断絶がありましたが、4Gから5Gへの変化は「きれいな動画が、もっときれいになる」という量的な改善でした。

だからこそ、次の世代では人間以外の利用者、つまり機械やセンサーの比重が大きくなります。

この一点を押さえておくと、これから紹介する技術群がなぜどれも速さ以外の方向を向いているのかが、すっきり腑に落ちるはずです。

世代交代の周期は、技術だけでなく国際標準化のカレンダーにも左右されます

もうひとつ、意外と知られていない話をします。

1G、2G、3G、4G、5Gと、移動通信の世代はほぼきっちり10年ごとに切り替わってきました。

日本では2001年に世界初の3G商用サービスが始まり、2010年に4G(LTE)、2020年に5Gという具合です。

これを技術の必然だと思っている方が多いのですが、実際には国際的な会議の日程がかなりの部分を規定しています。

WRC-27という、次の分水嶺

新しい世代を始めるには、まず使う周波数を国際的に決めなければなりません。

それを取り決めるのが、ITU(国際電気通信連合)が数年ごとに開く世界無線通信会議(WRC)です。

2027年に開催されるWRC-27の議題1.7では、4400〜4800MHz、7125〜8400MHz、14.8〜15.35GHzといった帯域を、IMT-2030以降の移動通信用に新たに指定するかどうかが検討対象になっています。

とりわけ7125〜8400MHzは6Gの主力候補と目されている帯域です。

「6Gは2030年頃」という時期は、技術開発の進み具合だけで決まっているわけではありません。

WRCでの周波数議論、3GPPの標準化スケジュール、設備投資と製品化のサイクルが噛み合って、ロードマップが組み上がっています。

次の世代というのは天から降ってくるものではなく、何千人ものエンジニアが会議室で少しずつ削り出していく人工物なのだと考えると、少し見え方が変わってきます。

3GPP Release 21のスケジュールはもう決まっている

規格づくりのほうも、日程が確定しています。

標準化団体の3GPPは2026年6月10日のシンガポール会合で、6Gを含むRelease 21のタイムラインを正式に承認しました。

要求条件にあたるStage 1の凍結が2027年3月、アーキテクチャのStage 2が2028年6月、詳細仕様のStage 3の機能凍結が2028年12月、そしてASN.1やOpenAPIといった最終的な記述の凍結が2029年3月という段取りです。

次に来る技術は、ひとつの名前ではありません

さて、ここからが本題です。「5Gの次は6G」という答えは間違ってはいませんが、あまりに大づかみすぎて、実際に何が起きるのかをほとんど教えてくれません。

いま同時並行で進んでいる本当の変化は、速度とはまったく別の軸を持った五つの流れとして捉えたほうが、はるかに実態に近いはずです。

①電波が「目」になる ── ISAC(通信とセンシングの融合)

基地局がレーダーになる、という発想の転換

ISACは Integrated Sensing and Communication の略で、通信のために飛ばしている電波を、そのままセンサーとしても使ってしまおうという技術です。

電波は物に当たれば反射して返ってきますから、その反射の変化を読めば、そこに人がいるのか、何かが動いたのかが分かります。

要するに、街じゅうに立っている基地局が、通信をしながら同時に巨大なレーダー網としても働きはじめるわけです。

NTTと上智大学は、カメラなどの専用センシング設備を使わず、商用基地局から届く電波の変化を利用して人の流れを推定する実証に成功しています。

観光地の混雑把握、高速道路の渋滞検知、線路への侵入検知、交差点の死角にいる歩行者の検出、さらには降雨量の観測やドローンの追跡まで、応用先の候補は驚くほど幅広く挙げられています。

カメラでも赤外線でもない、第三のセンシング

この技術に強く惹かれるのは、既存の設備をそのまま使えるところです。

カメラは映像を記録しますし、赤外線センサーは見通しの利く範囲しか見られません。

電波によるセンシングは、暗闇でも、多少の遮蔽物があっても働き、なおかつ顔画像そのものを取得しません。

ただし、これを「プライバシーの問題がない技術」と言い切るのは行き過ぎでしょう。

電波によるセンシングでも人の存在や動作は推定できますから、どこまでの情報を、誰が、どんな根拠で扱ってよいのかというルールづくりは、これから議論されるべき部分です。ここは正直、まだ答えが出ていないと感じています。

②電池が要らなくなる ── アンビエントIoT

消費電力1マイクロワットという桁違いの世界

「1平方キロメートルに100万台」という5Gの約束が、なぜ思ったほど身の回りに広がらなかったのか。

理由はいくつもありますが、大量の小型センサーを普及させようとしたとき、避けて通れない問題のひとつが電池です。

数百億個のセンサーをばらまいたところで、誰がその電池を交換するのでしょうか。

アンビエントIoTは、この詰みかけた状況をひっくり返す技術です。

3GPPのRelease 19で標準化が進められているDevice 1と呼ばれるデバイスは、ピーク時の消費電力がおよそ1マイクロワットとされています。

マイクロワットです、ミリワットではありません。周囲に飛んでいる電波や、わずかな光、振動から電力を拾って動くことで、電池レス、あるいはごく小さな蓄電機構だけで動かせることを目指しています。

「反射して話す」バックスキャッターという技術

その仕組みがまた面白くて、デバイス側は自分で電波を発信しません。

基地局などから飛んできたキャリア波を、反射するかしないかで切り替えることによって情報を乗せて返すのです。

バックスキャッターと呼ばれるこの方式なら、送信のための電力がほとんど要りません。

受信側にはOOK(オン・オフ・キーイング)のような非常に単純な方式も採用され、従来の通信プロトコルの階層も大部分が削ぎ落とされるなど、徹底して消費電力を削る設計になっています。

Release 19では、まず屋内の在庫管理と屋内での簡単な命令実行という二つの用途に絞って仕様がまとめられました。

電池のいらない値札、貼りっぱなしで数年動く物流タグ、点検の要らない設備センサー。

地味に聞こえるかもしれませんが、モノの数が数千億個の単位になったとき、これは間違いなく世界の風景を変えます。

③「圏外」が大きく減る ── 衛星直接通信

2025年から2026年にかけて、日本の3社が出揃いました

これは、すでに私たちの手の中で起きてしまった変化です。

特別なアンテナも専用の衛星電話も買わずに、対応する普通のスマートフォンから上空の人工衛星と直接やりとりできる時代になりました。

KDDIが2025年4月10日にau Starlink Directを先行して開始し、ソフトバンクが2026年4月10日、NTTドコモが同年4月27日に続きました。

当初はSMSだけでしたが、順次データ通信にも対応が広がり、地図アプリやメッセージアプリが山の中でも動くところまで来ています。

料金の扱いはキャリアによってばらばらで、プランに最初から含まれているもの、期間限定で無料のもの、別オプションになっているものが混在していますので、そこは各社の最新情報を確認してください。

速くはありません。でも、そこがいいのです

衛星直接通信は、速度で言えば5Gの足元にも及びません。

それでも、この数年で最も生活に効いた通信技術はこれだと考えています。

日本の国土のかなりの部分は山地で、登山道も、林道も、沿岸の漁場も、これまでずっと圏外でした。

速度が1000倍になっても圏外は圏外のままですが、圏外が減ることは、誰かの命が助かる確率を直接押し上げます。

正確に言えば「圏外という言葉が消える」わけではありません。

空が見えること、対応端末であること、衛星を捕捉できることといった条件は残りますから、これまで携帯基地局を置けなかった屋外の圏外が大幅に減っていく、と捉えたほうが実態に近いでしょう。

それでも、通信の価値基準が「速さの追求」から「面の充足」へ移りつつあることを、これほど分かりやすく示す例もありません。

④基地局がAIサーバーになる ── AI-RAN

通信のトラフィックには、はっきりした波があります。

深夜の住宅街も、平日昼間のオフィス街も、一日のうちのかなりの時間は設備の能力を持て余しています。

AI-RANは、この余った計算資源をAIの処理に振り向けてしまおうという構想です。

RANを支えるサーバーやエッジ拠点にGPUなどの計算資源を置き、通信処理をソフトウェアで動かしておけば、空いた時間はそのままエッジAIの基盤として使えます。

ソフトバンクはNVIDIAらと組んでAITRASと呼ばれる基盤の実証を進めていて、6G時代の中核技術のひとつとして位置づけられています。

通信会社が「回線を売る会社」から「計算能力も売る会社」へ半身をずらしていく話であって、技術というより産業構造の変化に近いのですが、だからこそ影響は大きいはずです。

⑤配線そのものが光になる ── IOWNと光電融合

30センチを30ミリに縮める、という地味で巨大な話

最後は無線ではなく、その裏側で全体を支えている部分の話です。

NTTが推進するIOWN構想の中核にあるのが光電融合技術で、これまで電気の信号で動いていた機器の内部を、できるだけ光に置き換えていこうとしています。

その最初の実用形である光電融合スイッチが、ブロードコムなどとの協業で2026年に市場投入される見込みです。

装置の中で電気が流れる配線の距離を300ミリ程度から30ミリ程度まで縮めることで、スイッチ単体の消費電力を約50%削減しながら、102.4Tbpsという容量を実現します。

なお、大阪・関西万博では別途、光電融合デバイスを使った光コンピューティングの実証が行われ、消費電力を従来比8分の1に抑える成果も示されました。

こちらはスイッチそのものの数字ではありませんので、混同しないでください。

生成AIの普及でデータセンターの電力消費が国家的な課題になりつつある今、この「電気を光に置き換える」という一見地味な取り組みは、次の十年で最も効いてくる技術のひとつになると睨んでいます。

どれだけ無線が速くなっても、その先の有線と計算機が電力の壁にぶつかれば、そこで全部が止まってしまうからです。

それでも6Gは来ます。ただし想像とは違う顔で

テラヘルツ波は、たぶん主役にはなりません

6Gの記事には必ずと言っていいほどテラヘルツ波が登場して、100Gbps、1Tbpsといった数字が躍ります。

ここは事実というより私の見立てとして書きますが、ミリ波が0.2%で足踏みした現実を見た後では、それより桁違いに扱いにくいテラヘルツ波が街を覆う姿は、正直なところ想像しにくいのです。

誤解のないように補足しておくと、テラヘルツ波の研究が捨てられたわけではまったくありません。

ドコモは100GHz超の帯域、ソフトバンクも高周波数帯の研究を明確に続けていますし、6Gのピーク速度向上は正式な研究テーマとして残っています。

変わったのは役割分担のほうで、全国的なカバレッジを担う候補としては、7〜8GHz帯を含むアッパーミッドバンドへの期待が急速に高まっています。

ミリ波ほど速くはないけれど、届く。この「そこそこ速くて、ちゃんと届く」という現実的な落としどころが、6Gの主戦場になると見られています。

WRC-27の焦点にこの帯域が入っているのも、そういうことです。

6Gの本当のキーワードは「速さ」だけではなく「一体化」

ここまで挙げてきた五つの流れを並べてみると、共通する性格が浮かび上がってきます。

通信とセンシングが一体化し、通信と電源が一体化し、地上網と衛星網が一体化し、通信とAI計算が一体化し、そして電子回路と光回路が一体化する。

6Gという言葉が最終的に指すことになるのは、たぶん「速い通信規格」というより、こうした一体化を全部ひっくるめた土台の名前です。

「その技術とは?」という問いにあえて一言で答えるなら、「ネットワークが、通信以外の仕事も引き受けはじめる」という言い方をしたいと思います。

では、私たちの暮らしは結局どう変わるのか

変化に「気づかない」時代がやってきます

少しがっかりさせるかもしれませんが、これから起きる変化の大半は、体感としてはほとんど分かりません。

5Gのときに「速くなった気がしない」と感じたのと同じことが、より徹底した形で起きます。

基地局が人の流れを見ていることにも、値札の中で電池のないチップが動いていることにも、私たちは日常のなかで気づく機会がないでしょう。

けれど、店に行けば欠品が減っていて、災害のときに避難所の混雑がなぜか正確に把握されていて、山で滑落した人が想定より早く見つかっている。

そういう形で結果だけが現れてきます。良いインフラというのは、いつだってそういう現れ方をするものです。

逆に、はっきり変わると思われるところ

一方で、変化を明確に自覚できる場面もあります。

ひとつは「圏外」に遭遇する機会が生活から減っていくこと。もうひとつは、電池交換や充電という手間が、身の回りの小さな機器から徐々に消えていくことです。

そして三つめに、通信料金の考え方そのものが変わる可能性があります。

速度で階段状に値段が決まる時代から、用途ごとに品質を選ぶ時代へ。

ネットワークスライシングが法人向けから個人向けへ降りてくれば、「速いプラン」ではなく「途切れないプラン」を選ぶことが当たり前になるかもしれません。

まとめ ── 次の技術は、静かにやってきます

5Gは、宣伝されたほど劇的には世の中を変えませんでした。

けれど、宣伝されなかった部分で確実に土台を入れ替えていて、その工事が本格化したのはついこの数年のことです。

そして次に来るものは、テラヘルツ波でも100Gbpsでもなく、電波が目になり、電池が消え、圏外が減り、基地局が考えはじめ、配線が光になるという、五つの静かな変化の束でした。

2027年のWRC-27で周波数の議論が動き、2029年3月に最初の6G仕様が固まり、2030年前後の商用化が見込まれています。大まかな日程は、すでに見えています。そのとき私たちはきっと、また「思ったほど変わらないね」と言うのでしょう。でも、その言葉が出てくること自体が、たぶん成功の証なのだと思います。

次に「5G」の表示を見かけたら、その裏側で何千人ものエンジニアが2029年の会議に向けて仕様書を削っていることを、ほんの少しだけ思い出してみてください。未来は、案外そういう地味な場所から届きます。

■参考・出典

  • 総務省「5Gの整備状況(令和7年度末)の公表」(2026年7月27日)── 5G人口カバー率98.6%
  • 東京大学大学院工学系研究科・村田製作所 プレスリリース(2025年5月22日)── ミリ波使用率0.2%(出典は総務省 5Gビジネスデザインワーキンググループ第3回 配布資料)
  • NTTドコモビジネス ニュースリリース(2026年3月26日)── 法人向け「5Gスライシング」提供開始
  • 3GPP「Timeline for Release 21」(2026年6月10日承認)── 6G標準化スケジュール
  • 3GPP「Release 19 Ambient IoT」── Device 1の消費電力・バックスキャッター方式
  • ITU WRC-27 議題1.7 ── IMT向け候補帯域(4400〜4800MHz/7125〜8400MHz/14.8〜15.35GHz)
  • KDDI ニュースリリース(2025年4月10日)── au Starlink Direct 提供開始
  • KDDI ニュースリリース(2026年8月25日)── Sub6対応エリア全域での5G SA提供と90%超のカバー率
  • ケータイ Watch「『IOWN』の光電融合スイッチ、26年にも市場投入」── 消費電力約50%削減・102.4Tbps
  • ペンシルベニア大学 研究発表(2006年)── 網膜から脳への情報量の推定