「羽」と「羽根」の違い|「はね」には”羽の付け根”という意味もあった?「翼」「翅」との使い分けも

新聞などの用字ルールでは、鳥の体に生えているあいだは「羽」、抜けたり抜かれたりして一本ずつになったら「羽根」と書き分けるのが一般的です。

そこから意味が広がり、扇風機やプロペラのように「羽根の形をした部品」も「羽根」と書くようになりました。

表記 おもな意味 例
羽 鳥や虫の体についているハネ、たとえの表現 鳥の羽、チョウの羽、羽を伸ばす
羽根 体から離れた一本ずつのハネ、ハネ形の道具や部品 赤い羽根、羽根つき、扇風機の羽根
翼 鳥などの飛ぶための器官(片側だけでも、左右まとめてでも)、飛行機のつばさ 鳥の翼、主翼、翼を広げる
翅 昆虫のハネ(現代ではおもに昆虫に使う専門的な書き方) トンボの翅、前翅・後翅

ただ、この表だけ覚えて終わりにするのは、少しもったいない気がします。

調べていくと「はね」という言葉には古く「羽の付け根」を指す意味があったことや、国語辞典と新聞とで言っていることが微妙に違うことが見えてきて、たった二文字の差がぐっと面白くなってくるんです。

新聞はどう書き分けているのか

毎日新聞の用語ルールを見てみる

使い分けをいちばんはっきり文章にしているのは、じつは新聞社です。

毎日新聞の校閲センターが2021年に公開した解説では、「羽」はつばさや昆虫のハネ、そして「羽を伸ばす」のようなたとえに使い、「羽根」はばらばらにした鳥の羽と、羽根の形をした器具や部品に使う、と整理されています。

具体例として挙げられているのは、「羽」が風切り羽・チョウやトンボの羽・飛行機の羽、「羽根」が赤い羽根・扇風機や風車の羽根・竹とんぼ・矢羽根・羽根突きなどです。

同じ空を飛ぶ乗り物なのに、飛行機は「羽」でヘリコプターは「羽根」になっているところは、何度見てもおもしろい線引きだと思います。

飛行機のハネは鳥のつばさのように本体と一体になっているのに対して、ヘリコプターのハネはくるくる回る部品なので扇風機と同じ仲間、と考えるとすんなり納得できますよね。

「羽根布団」と「羽毛布団」は別のもの

同じ解説には「羽根布団」という例も出てきます。

ここで混ざりやすいのが「羽毛布団」で、売り場ではこの二つは中身の違う商品として区別されるのが一般的です。

日本羽毛製品協同組合の説明では、ふわふわした綿毛のようなダウンが50%以上のものを羽毛ふとん、ダウンが50%未満のものを羽根ふとんと呼んでいます。

羽根ふとんでは、芯の通ったフェザーの割合が多くなります。

芯(軸)のある一本ずつのハネを「羽根」と書くという感覚が、布団の名前にもそのまま生きているわけです。

国語辞典を引くと、話が少しややこしくなる

辞典では「羽」と「羽根」が同じ見出しに入っている

ここまで読むと、二つの言葉はきっちり別物のように見えます。

ところがデジタル大辞泉を引くと、見出しは「はね【羽/羽根】」とひとまとめになっていて、鳥の全身をおおう羽毛も、飛ぶための器官も、バドミントンのシャトルも、タービンの金属片も、同じ項目の中に並んでいるんです。

少なくともこの辞典は二つを別々の言葉としては扱わず、一つの「はね」の書き方として並べていて、新聞ほどきっちりとは分けていません。

新聞のルールは、読者が迷わないように後から引いた交通整理の線であって、法律のような決まりではありません。

「鳥の羽根が落ちていた」と書いても「鳥の羽が落ちていた」と書いても、間違いとまでは言えないのはこのためです。

辞典の1番目に載っている意味は「羽の付け根」

もう一歩深く、精選版 日本国語大辞典で「羽根」を引いてみると、1番目に載っている意味は「鳥の羽軸の付根の部分」です。

羽軸(うじく)というのは一本のハネの真ん中を通っている芯のことで、その根もと、皮ふに刺さっているストローのような部分を指す「はね」があったことになります。

同辞典によれば、この意味の例は平安時代の辞書『和名類聚抄』(934年ごろ)に見られるそうです。

これを知ってから「羽根」という字を見ると、「根」は文字どおり「羽の根っこ」のことなのでは、と思いたくなります。

ただ、漢字の「根」がこの意味から来たとはっきり書いた資料は見つけられなかったので、ここは筆者の想像にとどめておきます。

それでも、根もとまで含めた丸ごと一本の姿は、体から抜けたときに初めて目に見えるものですから、「抜けた一本=羽根」という今の使い分けと不思議なくらいきれいにつながるんです。

新聞のルールは千年前の言葉の感覚を、知らず知らずのうちに引き継いでいるようにも思えてきます。

夏目漱石は「車の羽弁」「外套の羽根」と書いた

同じ辞典には、明治時代の用例として夏目漱石の文章が二つ引かれています。

『三四郎』(1908年)には風車の部品を指して「車の羽弁(はね)」と書いたくだりがあり、『文鳥』(1908年)には二重になったコートの外側の布を指して「外套の羽根」と書いたくだりがあります。

機械の部品にも、服のひらひらした部分にも「はね」を使っていたのですから、ハネの形をしたものへ意味が広がる動きは、少なくとも明治の終わりにはもう始まっていたことがわかります。

ちなみに『万葉集』には、うぐいすのハネを「翼」と書いて「はね」と読ませる歌(巻10・1840番)もあり、漢字と読みの組み合わせは昔のほうがずっと自由でした。

赤い羽根は、なぜ「羽」ではなく「羽根」なのか

50年史に書かれていた、ニワトリの羽根

「羽根」の代表例といえば、共同募金の赤い羽根です。

少なくとも中央共同募金会の50年史で紹介されている赤い羽根は、鳥の体から離れた一本ずつの羽根を使ったものなので、新聞の使い分けにもぴったり当てはまります。

国立国会図書館のレファレンス協同データベースには、「赤い羽根は本物の鳥の羽根なのか」という質問への図書館の回答が載っています。

根拠になっているのは、中央共同募金会が1997年にまとめた『みんな一緒に生きていく―共同募金運動50年史』などの資料です。

それによると材料はニワトリの羽根で、いちばん質のよいものには胸のあたりのやわらかい部分が使われ、1羽から取れるのは120本ほどだと紹介されています。

なお、これは1997年の資料にもとづく話で、いま配られている羽根がすべて同じ作り方かどうかまでは確認できていません。

数え方まで変わる

いまの文に「1羽から120本」と書きましたが、ここにも二つの言葉の違いが顔を出しています。

いまの文に「1羽から120本」と書きましたが、ここにも「羽」という字が二つの顔を見せています。
鳥そのものは「1羽、2羽」と数えるのに、一本ずつのハネになると「1本」や「1枚」と数えますよね。
同じ「羽」という字が、鳥を数える単位にも、鳥から離れた一本のハネを考える場面にも出てくるのは、調べていていちばんおもしろく感じたところでした。

「翼」と「翅」はどこが違う?

「翼」は骨と筋肉とハネでできた「飛ぶための装置」

「翼(つばさ)」は、鳥の前あし(人でいえば腕)の骨や筋肉と、そこに生えたたくさんのハネが一体になった、飛ぶための器官を指します。

一本一本のハネは「羽」や「羽根」ですが、それが何十枚も重なって腕全体をおおい、空気をつかむ大きな面になったものが「翼」です。

片側だけを指しても、左右をまとめて指しても「翼」と言えます。

鳥やコウモリだけでなく、飛行機の主翼や尾翼にも使われますし、「右翼・左翼」のように左右に張り出したものを指す言葉にもなっています。

いまの昆虫の本では「翅」と書くのがふつうなので、「チョウの翼」と書くと少し詩のような響きになります。

「翅」はおもに昆虫に使う字だけれど、常用漢字ではない

「翅」は昆虫のハネを指すときの専門的な書き方で、百科事典でも「昆虫類に特有な飛行器官」と説明されています。

漢字そのものには「はね・つばさ」という広い意味があるのですが、現代ではほとんど昆虫用の字として使われています。

鳥のハネが皮ふから生えた羽毛の集まりであるのに対して、昆虫のハネは体の壁がうすくのびてできた膜なので、まったく別のつくりをしているんです。

それなら昆虫はいつも「翅」と書けばよさそうですが、この字は常用漢字表に入っていません。

常用漢字表にあるのは「羽(ウ・は・はね)」と「翼(ヨク・つばさ)」の二つで、そのため新聞や一般向けの文章では「チョウの羽」と書かれ、図鑑や昆虫の専門書では「翅」と書かれる、という住み分けになっています。

どちらかが間違いなのではなく、読む人に合わせて字を選んでいるわけです。

迷ったときの決め方

3つの質問で決める

実際に文章を書いていて迷ったら、新聞などの一般的な書き方に合わせて、次の順番で考えるとほとんどの場合は決まります。

  1. 体についている、またはたとえの表現か → 「羽」(鳥の羽、羽を伸ばす、羽が生えたように売れる)
  2. 一本ずつに離れている、または回る部品や道具か → 「羽根」(羽根ペン、羽根つき、換気扇の羽根)
  3. つばさ全体を大きな面として言いたいか → 「翼」(翼を広げる、飛行機の翼)

ここでいう「羽根つき」は正月の遊びのことですが、「羽根つき餃子」も同じ書き方をします。

餃子の外へ薄く広がったパリパリの部分をハネに見立てた言い方で、扇風機の羽根と同じ「ハネ形のもの」の仲間だと考えると覚えやすいはずです。

英語では「wing」と「feather」

英語では、飛ぶための器官が wing、一本ずつのハネが feather と、最初から別の単語になっています。

共同募金の赤い羽根も英語では Red Feather で、wing とは言いません。

日本語は「はね」という一つの音で両方をまかなってきたので、漢字のほうで区別をつける必要が出てきた、と見ることもできそうです。

理解度チェック|この画像で「羽」「羽根」はどれ?

下の4枚の写真を見ながら、どれが「羽」で、どれが「羽根」なのか考えてみてください。

![羽と羽根の違いを考える4枚の画像](

クイズ

Q1. 左上の鳥の体についているものは、「羽」「羽根」のどちらでしょうか?

  • A. 羽
  • B. 羽根

Q2. 右上の机の上に置かれている一本ずつのものは、「羽」「羽根」のどちらでしょうか?

  • A. 羽
  • B. 羽根

Q3. 左下のチョウのハネを、新聞などの一般的な書き方で言うとどちらでしょうか?

  • A. 羽
  • B. 羽根

Q4. 右下の飛行機のつばさを、この記事の説明にいちばん合う言い方で言うとどれでしょうか?

  • A. 羽
  • B. 羽根
  • C. 翼

答え

A1. 正解:A. 羽
鳥の体についているあいだは、一般的に「羽」と書きます。

A2. 正解:B. 羽根
体から離れて一本ずつになったものは「羽根」と書くのが一般的です。

A3. 正解:A. 羽
新聞などの一般的な書き方では、チョウやトンボなど昆虫のハネも「羽」と書くことが多いです。
※専門的な文章では「翅」と書くこともあります。

A4. 正解:C. 翼
飛行機のつばさ全体を言いたいときは「翼」がいちばんぴったりです。
なお、新聞などの用字では「飛行機の羽」と書かれることもあります。

 

まとめ

新聞などの一般的な書き方では、「羽」は体についているハネとたとえの表現、「羽根」は離れた一本ずつのハネとハネ形の部品に使います。

「翼」は鳥や飛行機のつばさ、「翅」は現代ではおもに昆虫に使う専門的な書き方です。

ただし国語辞典では「羽」と「羽根」は同じ言葉の二つの書き方として扱われていて、きっちりした線引きは新聞などが読みやすさのために決めたものでした。

そして古い辞書をたどると、「はね」という言葉には「羽の付け根」を指す意味もありました。

抜け落ちたハネを道で見かけたら、根もとの白い芯のところを眺めてみてください。

千年前の人が「はね」と呼んだもののひとつは、まさにその部分だったのかもしれません。

似ているけれど意味の違う言葉は、「似て非なる言葉」のまとめページでも紹介しています。

参考にした資料

  • 毎日新聞校閲センター「その『はね』は? 『羽』と『羽根』の使い分け」(毎日ことばplus、2021年9月15日)
  • 『精選版 日本国語大辞典』「羽根」「羽」の項、『デジタル大辞泉』「はね【羽/羽根】」の項(コトバンク)
  • レファレンス協同データベース「『赤い羽根共同募金』で使用されている『赤い羽根』は本物の鳥の羽根を使用しているのか」
  • 日本羽毛製品協同組合「羽毛ふとんの豆知識 Q&A」
  • 文化庁「常用漢字表」(平成22年内閣告示)