CCS・CCUS・DACの違いとは?「どこで捕まえるか」だけでは半分も説明できない

CCS、CCUS、DAC。

脱炭素の記事を読んでいると、この三つがほとんど同じ顔つきで並んでいて、そして大抵は「CCSは工場の煙突から回収して地下に埋める技術、CCUSはそれに利用を加えたもの、DACは大気から直接吸い取るもの」という説明で片づけられています。

間違ってはいないのですが、これで分かった気になると、次に出てくる疑問にまったく答えられなくなります。

たとえば、なぜDACのクレジットは1トン500ドルもするのに森林由来は6ドルなのか?

なぜアメリカの税制は同じCO2を埋めるのに点源とDACで金額を変えているのか?

そもそも「利用」したCO2は、本当に減ったことになるのか?

どれも「回収する場所が違う」という説明からは出てこない話です。

この記事では、三つの技術を回収場所だけでなく、濃度・保持時間・会計という三本の軸で並べ直してみます。

少し遠回りに見えるかもしれませんが、この三本を通した瞬間にバラバラだった言葉が一本につながります。

少なくとも私はそうでした。

まず、四つの言葉を最短で仕分けしておきます

三つと言いながら四つ書いたのには理由があって、CCUという言葉を飛ばすとCCUSの説明が必ずどこかで破綻するからです。

CCS

※Carbon dioxide Capture and Storage/二酸化炭素回収・貯留

発電所や工場から出るCO2を分離回収し、地下深くの地層に圧入して閉じ込める技術です。

日本の実証では地表から1,000メートル以上深い層が使われました。

CCU

※Carbon dioxide Capture and Utilization/回収・利用

回収したCO2を原料として使う方向で、コンクリートや燃料、化学品から、ドライアイスや炭酸飲料の泡までを含みます。

CCUS

この二つをまとめて呼ぶための言葉です。

DAC

※Direct Air Capture/直接空気回収

これだけは回収する場所が違っていて、煙突ではなく、そのへんの空気から取ります。

「CCUS」は技術の名前ではなく、傘の名前です

ここが最初のつまずきポイントだと思っています。

CCSとDACは「こういう装置でこうする」と説明できる技術ですが、CCUSという装置はどこにも存在しません。

回収したCO2の行き先が貯留と利用の二通りあるので、まとめて呼んでおこうという、いわば整理のための用語です。

ですから「CCSとCCUSの違いは何ですか」という問いは、厳密には「四角形と、四角形か三角形のどちらかの違いは何ですか」と聞いているのに近くて、CCSはCCUSの中に含まれています。

並列ではありません。

DACとDACCSは、別の言葉です

そしてもう一つ、多くの解説記事が混同したまま進んでいるところがあります。

DACは「大気からCO2を回収する」ところまでしか意味していなくて、回収したCO2をどうするかはこの言葉の外側の話です。

地下に貯留すればDACCS(DAC with Carbon Storage)、燃料などに使えばDACUと呼び分けます。

「DAC=大気からCO2を減らす技術」という書き方は、だから半分だけ正しいことになります。

「回収した」で終わる技術と、「除去した」まで言える技術

回収しただけのCO2はどこにも行っておらず、タンクの中にあるだけです。

それを何万年も動かない場所に置いて、はじめて「大気から除去した」と言えるようになります。

もう少し正確に言うと、回収したCO2を耐久的に貯留・固定し、回収や輸送に伴う排出まで差し引いて大気中のCO2が純減して、はじめて『炭素除去』と数えられます。

細かい言葉遊びに見えるでしょうか。

実はここが、後で出てくる「クレジットの値段が80倍違う」話の根っこにあります。

違いを決めているのは、実は三本の軸です

第1の軸|どこから採るか(濃度の問題)

いちばん有名な軸から始めます。

CO2をどこから採るかで、必要な手間が桁違いに変わります。主なCO2源の濃度を並べると、こうなります。

CO2源 おおよそのCO2濃度
アンモニア製造、バイオエタノール発酵 ほぼ100%
天然ガス精製時の随伴ガス 数十%
高炉ガス(製鉄) 20%台
セメントキルン排ガス 15〜30%
石炭火力の排ガス 12〜14%
天然ガス火力の排ガス 4〜5%
大気 約0.042%(420ppm台)

上から下まで、実に2,000倍以上の開きがあります。

1トンのCO2を大気から採るには、東京ドーム2杯分の空気が要ります

「大気は薄いから大変」と書いてある記事は山ほどあるのですが、どのくらい大変なのかを数字にしているものはあまり見かけないので、計算してみます。

空気1立方メートルに含まれるCO2は、420ppmだと体積で0.00042立方メートル、CO2の密度は約1.96kg/m³ですから質量にして約0.82グラムです。

ここから1トン(100万グラム)を集めようとすると、必要な空気はおよそ122万立方メートルになります。

東京ドームの容積が約124万立方メートルなので、理論上ぴったり1杯分。

しかも現実の装置は通り抜ける空気のCO2を全部は捕まえられませんから、捕捉率が5〜7割程度だとすれば、東京ドーム約2杯分の空気を装置に通して、ようやく1トンという計算になります。

同じ計算を石炭火力の排ガス(CO2濃度12%)でやると必要なガスは約4,300立方メートル、25メートルプール10杯分ほどです。

つまり同じ1トンを得るのに、扱う気体の量が300倍近く違うということになります。

「薄いと高くつく」の正体は、エネルギーだけではありません

ここで少し意外な事実を挟みます。

熱力学の計算では、大気からCO2を分離するのに必要な最小仕事は1トンあたり約0.5ギガジュール、石炭火力の排ガスからだと約0.16ギガジュールで、理論上の差は3倍程度しかありません。

実際の装置でも点源回収が2〜4GJ/t、DACが5〜10GJ/t程度で、せいぜい2〜3倍にとどまります。

それなのに実際のコストは何倍にも開くわけで、この差はどこから来るのか。

効いている要因は、少なくとも二つあります。

一つは空気を通すための巨大な接触設備(エアコンタクター)で、122万立方メートルの空気を扱う装置は物理的に大きくならざるを得ず、米エネルギー省の分析でも、方式によってはこの部分だけで平準化コストの2〜3割を占めるとされています。

もう一つは吸収材・吸着材からCO2を追い出す再生工程のエネルギーで、こちらはDACのエネルギー需要の中心を占める部分です。

つまり「大量の空気を処理するための設備」と「材料を再生するためのエネルギー」の両方が同時に効いていて、どちらか一方が本丸というわけではありません。

私は最初「設備の大きさが主犯だろう」と単純に考えていたのですが、調べていくうちに、DAC企業が新しい吸収材の開発と装置の小型化を同じくらい熱心にやっている理由が腑に落ちました。両方の戦線で戦っているわけです。

濃度で並べたときの、回収コストの段差

IEAの整理では、アンモニア製造や天然ガス精製のような高純度ガスからの回収は1トンあたり15〜25ドル、セメントや発電所のような希薄なガスからだと40〜120ドルとされています。そして同じIEAは、現在稼働・計画中のDACプロジェクトのコストを1トンあたり500〜1,900ドルと見積もっており、材料の進歩と規模の効果で今世紀半ばには300ドル程度まで下がりうる、という見通しを添えています。

同じ「CO2回収」でも、いちばん安い条件といちばん高い条件では数倍から数十倍の差がある。

ひとつの技術カテゴリの中にこれだけの段差があること自体が、この分野の最大の特徴かもしれません。

第2の軸|採ったあと、どこへ置くか(保持時間の問題)

濃度の話は比較的よく書かれているのですが、ほとんど書かれていないのがこちらの軸です。

燃料は1年未満、建材は100万年──同じ「利用」でも寿命が違う

IEAの報告書に、CO2を製品に使ったときの「保持時間」を整理した部分があります。

読んだとき、正直これを最初に持ってくるべきだろうと思いました。

使い道 CO2が大気に戻るまでの時間
合成燃料、CO2由来メタン 1年未満
化学中間体 約10年
ポリマー(プラスチック類) 数百年
建材(コンクリート養生、炭酸塩化) 実質的に永久(100万年オーダー)
地下貯留(帯水層・枯渇油ガス田) 数千年〜数万年以上

同じ「CCU」の看板の下に、1年未満と100万年が同居しているわけです。

CO2から作った合成燃料は燃やせば当然CO2に戻るので、ここでの効果は「CO2を減らした」ではなく「化石燃料を使わずに済んだ」であって、意味は十分あるにせよ性質がまったく違います。

一方でコンクリートにCO2を固定する炭酸塩化は化学的に安定していて、掘り返して焼かないかぎり戻ってきませんから、CCUの中でこれだけはCCSに近い性格を持っています。

CCUの現実は、九割が尿素とEORです

もう一つ、あまり触れられない数字を出します。

世界で年間に「使われている」CO2の量は約2億3,000万トンで、その内訳がなかなか率直です。

用途 年間利用量の目安
尿素(肥料)製造 約1億3,000万トン
EOR(原油増進回収) 約7,000〜8,000万トン
食品・飲料、温室栽培、冷却、金属加工など 残り約2,000〜3,000万トン

合成燃料もCO2由来プラスチックも、この統計の中では誤差の範囲です。

上位二つだけで全体の九割近くを占めていて、つまりCCUの現実の大部分は、肥料と油田ということになります。

記事で紹介されるようなキラキラした用途は、まだほとんど量になっていません。

第3の軸|誰が、何として数えるか(会計の問題)

三本目です。ここが個人的にはいちばん面白いところで、そして日本語の解説記事でほぼ見かけない軸でもあります。

「削減」と「除去」は、帳簿の別の欄に載ります

温室効果ガスの勘定では、排出削減(emission reduction)と炭素除去(carbon removal/CDR)が別扱いになっています。

化石燃料由来のCO2を煙突で捕まえて埋めるCCSは、これから出るはずだったCO2を出さないようにした行為なので「削減」。

すでに大気にあるCO2を取り出して固定するDACCSは「除去」です。

同じ「1トンのCO2を地下に入れた」という行為でも、そのCO2が化石燃料から来たか空気から来たかで、帳簿の載る場所が変わる。

当たり前のようでいて、これが決定的です。

ちなみに、この線引きはCCS技術そのものの性質ではなく、CO2の出どころで決まります。

だからバイオマス発電の排ガスにCCSを組み合わせるBECCSは、植物が大気から吸ったCO2を地下に閉じ込めることになるので「除去」に分類されます。

日本の資源エネルギー庁もBECCSをCDRとして扱っています。

同じ装置でも、燃やしているものが石炭かバイオマスかで、帳簿の欄が変わるわけです。

だから「ネットゼロには炭素除去が要る」という理屈になります

ネットゼロとは排出をゼロにすることではなく、どうしても消せない排出(残余排出)を、同じ量の除去で相殺してゼロにするという定義です。

農業由来のメタンや一酸化二窒素、長距離航空、一部の工業プロセスなど、どれだけ努力してもゼロにならない排出は必ず残りますが、この残りを打ち消せるのは削減ではなく除去だけなので、化石燃料由来の点源CCSをどれだけ増やしても除去の欄は埋まりません。

代わりが利かない席に座っているのは、DACという特定の技術ではなく、炭素除去という機能のほうです。

その席を埋める候補にはDACCSのほかにBECCS、植林・再植林、バイオ炭、岩石風化促進などが並んでいて、IEAもDACを「炭素除去のポートフォリオを構成する重要な一つ」として位置づけており、唯一の手段とはしていません。

DACCSが「高いのに必要」と言われる理由の一つはこの会計上の位置にあるわけですが、あくまで有力な選択肢の一つであって、独占的な解ではないという但し書きは付きます。

逆に言えば、残余排出を減らす努力が進めば進むほど、除去に求められる総量そのものが小さくなります。

CCUSの「U」が抱えている、あまり語られない事情

三本の軸を通したところで、少し居心地の悪い話をします。

この言葉は、アメリカの油田から広まりました

CCSにUが足された経緯を辿っていくと、環境技術というより石油産業の事情に行き着きます。

古い油田は掘っていくと圧力が落ちて原油が出にくくなるのですが、そこにCO2を圧入すると圧力が回復し、原油の粘性も下がって、取り残されていた分が採れるようになります。

これがEOR(Enhanced Oil Recovery/原油増進回収)で、アメリカでは1970年代から商業的に行われてきました。つまりCO2は、環境対策の対象になるずっと前から買ってでも欲しい資源だったわけです。

EORという、居心地の悪い現実

CCUSが語られるとき、日本語の記事では「利用=カーボンリサイクル、燃料や化学品への転換」という綺麗な絵が描かれがちです。

けれど先ほどの数字のとおり、実際に使われているCO2の三分の一はEOR向けで、そこでは圧入したCO2の相当部分が地下に残る一方で、その結果として原油が追加で生産され、それは燃やされます。

差し引きでプラスかマイナスかは圧入量と増産量、そして使う電力の炭素強度によって変わるので、一律に「削減」とは言えません。

「CCUSの導入量が伸びている」というニュースを見るとき、その中身がEORかどうかで意味がかなり変わってくる。この一点だけでも知っておく価値があると思います。

それでもCCUを切り捨てられない理由

では「U」は言葉の粉飾なのかというと、そうも言えません。

一つには、国内に十分な貯留適地がなかったり、排出源から貯留地までの距離が遠かったりする国では、地下貯留のハードルが高くなるからです。

もちろん、回収したCO2を船などで国外の貯留地へ運ぶという選択肢もあるので、「埋められなければ使うしかない」という単純な二択ではありません。

それでも輸送・貯留インフラを整えるには時間と費用がかかるため、CO2を製品や燃料の原料として利用する道にも意味があります。

お金の付き方を見ると、三つの区別が一番はっきりします

技術的な違いを延々と説明されるより、いくら払われているかを見たほうが早い場合があります。

制度というのは、その社会が三つをどう区別しているかを、金額という形で正直に表示しているからです。

アメリカの45Q──貯留とDACに、別々の値段がついている

アメリカの税制には45Qという炭素隔離の税額控除があります。

2022年のインフレ抑制法(IRA)で決まった金額が、この分野の価値観をよく表していました。

【2022年IRA改正後・2025年OBBBA改正前の金額】

回収の種類 行き先 控除額(1トンあたり)
点源回収(工場・発電所) 地中貯留 85ドル
点源回収 EOR・利用 60ドル
DAC 地中貯留 180ドル
DAC EOR・利用 130ドル

読み取れることが二つあります。DACには点源の約2倍が支払われていること、そして貯留と利用で金額に差がつけられていること。

結果として、DACや地中貯留により高いインセンティブを与える設計になっていました。

2025年、EORが「貯留と同額」になった意味

ここに新しい動きがありました。2025年7月に成立した通称One Big Beautiful Bill Actにより、EOR・利用向けの控除額が地中貯留と同額に引き上げられ、点源は一律85ドル、DACは一律180ドルとなっています。

用途による差がなくなったわけです。

これを進歩と見るか後退と見るかは立場で割れると思います。

産業界からすれば投資判断がしやすくなった一方で、永続的に閉じ込める行為と原油を増産する行為に同じ額を払うことになったので、「永続性への評価」という思想は薄まりました。

政策が技術の定義を変えることはありませんが、どの技術にお金が流れるかは確実に変えます。

この2025年の変更に触れている日本語記事はまだ少ないので、押さえておくと差がつくポイントだと思います。

クレジット市場が「1トンの確からしさ」につけた値段

制度ではなく、企業が自発的に買っている市場のほうも見てみます。

2025〜2026年の相場観です。

種類 1トンあたりの平均価格
REDD+(森林減少回避) 約6ドル
改良型森林管理(IFM) 約15ドル
植林・再植林(ARR) 約22ドル
バイオ炭 約177ドル
岩石風化促進(ERW) 200ドル超
BECCS 約389ドル
DAC 500ドル超

森林由来6ドル、DAC由来500ドル──何に払っているのか

市場ではどちらも「1 tCO2e」のクレジットとして売られます。

しかし、その1トンの確からしさは同じではありません。

そもそもREDD+は「本来なら失われていた森林を守った」という排出回避型で、DACCSは大気から実際にCO2を取り除く除去型ですから、商品としての性格が違います。

加えて、追加性(その活動は本当に上乗せか)、ベースラインの置き方、リーケージ(別の場所に森林減少が移動していないか)、MRV(測定・報告・検証)の精度、そして永続性──評価軸はいくつもあって、実際、同じ種別のプロジェクトの中でも品質評価によって価格は大きく散らばります。

それでも表を上から下まで眺めると、価格の順序がおおむね「戻ってこなさと、測りやすさ」の順に並んでいるのが見て取れます。

第2の軸で見た保持時間が、現実の市場でどう値付けされているかの答えがここにあると言っていいと思います。市場は案外、正しいところを見ています。

数字の桁を、一度そろえて見ておきます

期待の話が続いたので、現実の規模を確認しておきます。Global CCS Instituteの年次報告とDAC関連の集計を見てみます。

  • 世界で稼働中の商用CCS施設:77施設、回収能力は年6,400万トン
  • 建設中:47施設/開発中:610施設
  • DACについては、2025年末までに84施設、合計約57万トン/年の公称能力が稼働する計画とされていました
  • 世界のエネルギー起源CO2排出量:年およそ384億トン

ただし、ここでDACの57万トンをそのまま「現在稼働している能力」と読むことはできません。

計画の大部分を占める大型施設には立ち上げ途中のものが含まれ、計画どおりの能力に達していないからです。

したがって、DACについては世界排出量に対する正確な比率をここで計算するより、計画上の57万トン/年をすべて実現したとしても、世界のエネルギー起源CO2排出量約384億トンの0.0015%程度にすぎない、と見るのが適切です。

CCSについても年6,400万トンという回収能力は世界排出量の約0.17%に相当します。

いずれにしても、現在の世界排出量と比べればまだ非常に小さい規模です。

日本という場所の事情

CCS事業法がつくった「貯留権」という新しい権利

2024年5月、日本で「二酸化炭素の貯留事業に関する法律」(CCS事業法)が成立しました。

試掘に関する規定が2024年11月18日に先行して施行され、貯留や導管輸送を含む残りの規定は2026年5月22日に全面施行されています。

制度としては、もう動き出している段階です。

それまで日本には、CO2を地下に埋めることを正面から扱う法律がありませんでした。

海域は海洋汚染防止法、陸域は明確な枠組みなし、という状態です。この法律は鉱業法に似た発想で「試掘権」と「貯留権」という新しい権利を作り、経済産業大臣の許可制にしました(海域では環境大臣の同意も必要です)。

地下の特定の層に「CO2を入れる権利」が法的な財産として定義されたわけで、地味ですが相当大きな制度変更だと思います。

千年先の責任を、誰が引き受けるのか

この法律でいちばん考えさせられるのは、圧入をやめたあとの扱いです。

事業者は圧入中も停止後も、貯留層の温度や圧力をモニタリングする義務を負い、CO2の挙動が十分に安定したと確認されれば貯留事業の廃止許可を受けて、その後の管理業務をJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)に移管できます

移管にあたっては、事業者がその後の管理費用に充てる拠出金を納めることになっています。

つまり、企業の寿命より長い責任を国の機関が引き取る仕組みが作られたわけです。

CO2は数千年から数万年そこにいるのに対して、その間に会社は何度も消えたり合併したりしますから、誰かが見ていなければならないなら、それは国しかありません。

ここで一つ補足しておくと、この論点はCCS固有のものではありません。

回収したCO2を地下に貯留するなら、それがDAC由来であっても同じ話になります。

CCS事業法が規制しているのは「どこから捕まえたCO2か」ではなく「地下にCO2を貯留する事業」そのものですから、DACCSも当然この枠組みの中に入ります。

長期管理の問題が生じないのは、CO2を製品として使い切ってしまうDACUや短期利用型のCCUのほうです。

記事の前半で「DACとDACCSは別の言葉」と書いたことが、ここで効いてきます。技術の話をしていたはずが、いつのまにか制度と時間の話になっている。

この分野の面白さは、たぶんそこにあります。

苫小牧が示したこと、示しきれなかったこと

日本のCCSといえば北海道苫小牧の実証試験で、2016年4月に圧入を開始し、2019年11月に累計30万トンを達成して圧入を終えました。

貯留先は深さ1,000メートル以上の萌別層・滝ノ上層です。

証明されたことは大きく、地震国日本でも安全に圧入・監視できること、モニタリング技術が機能することが確かめられました。

2018年の北海道胆振東部地震の際にも、貯留したCO2への影響は確認されていません。

一方で、あまり指摘されないことも一つあります。

苫小牧で回収されたCO2は、製油所の水素製造装置から出るCO2を多く含むガスが源でした。 排ガスの中では比較的濃度が高い、回収しやすい条件です。

石炭火力の希薄な排ガスやセメント工場の排ガスから同じことをやるのは条件がだいぶ違うので、実証は成功したけれど「一番易しい条件での成功」であって、そこから先はまだこれからだ、というのが正直なところだと思います。

日本の産業構造は、実はCCS向きだという見方

日本国内の貯留適地は、有望とされる11地点で合計約160億トンと推定されています。

日本の年間排出量が約10億トンですから単純計算で16年分、心強くはありませんが絶望的でもありません。

政府の目標は2030年までに年600〜1,200万トンの貯留に目途をつけ、2050年には年1.2〜2.4億トンを可能にすることで、先進的CCS事業として9案件が採択され動き出しています。

セメント・製鉄・化学──電化では消えない排出があります

ただ、日本にCCSが要ると言われる本当の理由は、貯留適地の量ではなく産業構造のほうにあります。

セメント製造で出るCO2の6割前後は、燃料の燃焼ではなく石灰石を焼いたときに石灰石そのものから出るもので、工場を再エネ電力で動かしてもこの分は消えません。

製鉄の高炉も還元剤としての炭素が本質的に必要ですし、化学産業も事情は似ています。

電化と再エネでは原理的に消せない排出が、日本のGDPを支える産業の中心にある。

ここを何とかしようと思えば、選択肢はCCSかCCU、あるいは水素還元製鉄のような製法そのものの転換しかありません。

DACはこの問題を解いてくれません。

役割が違うからです。

結局、どれが本命なのか

順番がある、という考え方

三つを競わせて一つを選ぶ、という問いの立て方があまり有効でないことが、ここまでで見えてきたかと思います。

役割が重なっていないからです。順番として整理すると、こうなります。

  1. まず減らす(省エネ、再エネ、電化)。いちばん安く、場合によってはやったほうが儲かる
  2. どうしても出るものは出口で捕まえる(CCS/CCU)。セメントや製鉄の工程由来がここ
  3. それでも残るものを、除去で相殺する(DACCS、BECCSなど)。いちばん高い

いちばん高い手段から手をつける理由は、本来ありません。

除去が「最後の砦」と呼ばれるのは格好いいからではなく、他の手段が使えなかった分の後始末だからで、その後始末をどの方法で担うか(DACCSか、BECCSか、それ以外か)はコストと供給量で決まる別の問題です。

DACをめぐる、期待と警戒の両方

「あとで吸えばいい」が招くもの

DACの議論には必ずモラルハザードという論点がついてまわります。

「将来DACで吸えばいいなら、今の削減を急がなくていいのでは」という発想が生まれてしまう、という懸念です。

これは杞憂ではありません。

実際、企業は将来のDACにすでに大量の予約を入れています。2022年から2025年上期までに契約されたDACクレジットは約247万トン。

それに対して実際に引き渡された量は、同時点でわずか約1,200トンでした。

必要性への期待と、現実の供給能力の間にはまだ巨大な溝があります。

かといってDAC不要論も行きすぎで、残余排出は必ず出るからです。必要だが、免罪符にはならない。

この両立が難しくて、議論がしばしば極端に振れます。

私は、DACを「保険」だと考えるのがいちばん実態に近いのではと思っています。

保険に入っているからといって無茶な運転をしていいことにはならないけれど、入っていないと、いざというとき何も残りません。

一覧表で整理します

比較項目 化石由来の点源CCS CCU CCUS DAC
回収する場所 排出源(煙突など) 排出源 排出源 大気中どこでも
CO2濃度 4〜100% 4〜100% 4〜100% 約0.042%
回収後の行き先 地下貯留 製品・燃料 貯留または利用 貯留(DACCS)/利用(DACU)
保持時間 数千〜数万年 1年未満〜永久(用途次第) 用途次第 行き先による
会計上の扱い 排出削減 削減または相殺(条件付き) 主に削減 貯留すれば炭素除去
大気中CO2を減らせるか 減らない(新たな排出を防ぐ) 原則減らない 原則減らない 減らせる(貯留すれば)
1トンあたりの目安 15〜120ドル+貯留費 用途で大きく変動 同左 500〜1,900ドル(IEA)
設置場所の制約 排出源+貯留適地の近く 排出源とユーザーの近く 同左 排出源には縛られない(低炭素エネルギー・貯留地などの条件あり)
世界規模の目安 年6,400万トン(稼働中77施設) 年2.3億トン(大半が尿素・EOR) 約57万トン/年(84か所、2025年末稼働予定分)

※表の1列目を「化石由来の点源CCS」としているのは、同じCCS技術でもバイオマス由来のCO2を貯留するBECCSは炭素除去に分類されるためです。

CCSという技術が除去になるかどうかは、装置ではなくCO2の出どころで決まります。

「大気中CO2を減らせるか」の行が、この表でいちばん重要だと思っています。

化石燃料由来の点源CCSは増やさない技術であって、減らす技術ではありません。

ここを取り違えている記事が、驚くほど多いのです。

よくある誤解と、その答え

Q. CCSとCCUS、どちらの言葉を使えばいいですか?

貯留だけを指すならCCS、利用も含めて広く語るならCCUSです。国際機関でも使い分けに揺れがあり、IEAはCCUSを好んで使い、IPCCの報告書ではCCSが基本になっています。どちらが正しいというより、話し手の立場が出る言葉だと思ってください。

Q. DACがあれば、もう排出を減らさなくていいのでは?

コストの桁が違います。省エネや再エネへの転換は1トンあたり数十ドル、場合によってはマイナス(やったほうが儲かる)なのに対して、DACは現状500〜1,900ドル。加えて、2025年末までに計画されていた約57万トン/年のDAC能力がすべて実現したとしても、世界のエネルギー起源CO2排出量の約0.0015%にすぎません。順番を飛ばす余裕は、どこにもありません。

Q. CO2を製品に使えば、それで削減になりますか?

なる場合とならない場合があります。判断の目安は三つで、①転換に使うエネルギーは低炭素か、②より排出の多い既存製品を置き換えているか、③そのCO2は製品の中にどれくらい留まるか。合成燃料は①と②で意味を持ちますが③では点が取れず、コンクリートへの固定は③で満点です。

Q. 埋めたCO2が漏れる心配はないのですか?

ゼロとは言えません。だからこそ日本のCCS事業法は、圧入中も停止後もモニタリングを義務づけ、その費用を事業者に拠出させ、安定確認後は国の機関が引き継ぐ設計になっています。「絶対に漏れない」ではなく「漏れたら分かる体制を、事業者がいなくなっても維持する」というのが、制度としての実際の答え方です。

おわりに

三つの技術を分ける軸を、もう一度だけ。どこから採るか(濃度)、採った後どこへ置くか(保持時間)、それを誰が何として数えるか(会計)。

この三本で見ると、化石由来のCCSは「濃いところから採って、長く置く、削減」。

CCUは「濃いところから採って、置く時間はまちまちで、多くは削減にならない」。

DACCSは「いちばん薄いところから採って、長く置く、除去」。

CCUSは、これらを束ねた呼び名です。

同じCCS装置でもバイオマスにつなげば除去に変わるところまで含めて、三本の軸はきれいに機能します。

最初の「回収する場所が違う」という説明は、三本のうち一本しか通していなかったわけで、残りの二本を通したとき、なぜDACのクレジットが500ドルなのか、なぜアメリカの税制がDACに倍払っていたのか、なぜ日本の法律が千年先の管理者を決めようとしているのかが、ようやく一本の線でつながります。

技術の話だと思って読み始めると、最後は制度と時間の話になっている。

この分野の厄介さであり、たぶん、いちばんみなさんが知りたいところなのだと思います。

■参考資料