そもそも「OSアップデートの義務化」とは何の話なのか
スマホを何年使えるかを左右する大きな要素の一つが、メーカーがいつまでソフトウェアの面倒を見てくれるかです。
セキュリティ更新が止まったスマホは、鍵の壊れた玄関のようなもので、見た目は普通でも安心して銀行アプリや決済を任せるわけにはいきません。

そこで、OS更新の提供期間や条件をメーカー任せのままにせず、法律でルールを設けたのがEUです。これが日本で「OSアップデート義務化」と呼ばれている話の正体です。
ただし、後で詳しく見るように、条文には「メーカーが更新を提供する場合には」という条件があり、「必ず5年間、新しい更新を作り続けなければならない」とまで読めるのかには議論があります。
法律の名前は「セキュリティ法」ではなく「エコデザイン規則」
ここで少し意外なのが、この義務を定めているのがサイバーセキュリティの法律ではない、という点です。
根拠になっているのは欧州委員会規則(EU)2023/1670という、スマホやタブレットの「エコデザイン(環境配慮設計)」を定めたルールで、2023年6月に採択され、2025年6月20日から適用が始まりました。
つまりEUは、更新が切れたせいでまだ動くスマホが捨てられてしまうことを「ごみ問題」としてとらえ、環境政策の側から更新期間に切り込んだわけです。

同じ規則には、充電800回後もバッテリー容量の80%を保つこと、重要な交換部品を販売終了後7年間用意すること、落下への強さや修理のしやすさをラベルで表示することなども並んでいます。
OSアップデートは、こうした「長く使える設計」の部品の一つとして位置づけられている、と理解すると全体像がつかみやすくなります。
条文を読むと見えてくる3つのルール
規則の附属書II(スマホは1.2の第6項)を実際に読んでみると、更新に関する決まりは大きく3つに整理できます。
①販売終了から最低5年、提供する更新は無償
規則では、その機種の最後の1台をEU市場に出した日から少なくとも5年間、メーカーがOSのセキュリティ更新・不具合修正・機能更新を提供する場合、その更新を同じOSを使う対象機種に無償で提供することを求めています。
欧州委員会はこれを「最後の1台の市場投入終了から少なくとも5年間のOS更新」と要約していますが、条文には「更新を提供する場合には」という条件が入っている点には注意が必要です。
②公開から4か月以内・6か月以内という配信期限
セキュリティ更新と不具合修正は、基礎となるOS更新のソースコード公開から遅くとも4か月以内、新機能を含む更新は6か月以内にユーザーへ届けることが求められています。
ソースコードが公開されない場合は、OS提供元が同じOSの更新を公開した時点や、同じブランドの別製品に同じOS更新が提供された時点が基準になります。
年数だけ長くても、配信が半年も1年も遅れるのでは意味が薄いので、ここは地味ながら効いてくる部分だと感じます。
③アップデートで性能を落としてはいけない
更新を入れたら動作が重くなった、という経験談はよく聞きますが、規則はこの点にも踏み込んでいます。
機能更新によって端末の性能が下がった場合、メーカーは合理的な期間内に無償で元と同等以上の性能に戻すよう修正しなければならず、例外はユーザーがその性能低下に事前にはっきり同意した場合です。
「更新するほど遅くなって買い替えたくなる」という状況を、制度の側から封じにかかっているわけですね。
見落とされがちな核心──「5年」はどこから数えるのか
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
国内の解説記事の多くは「EUは5年、日本メーカーも5年だから同水準」とまとめていますが、条文と各社の注釈を並べて読むと、同じ「5年」でも中身がかなり違うことに気づきます。

EUは「販売終了から」、国内メーカーは「発売から」
EUの5年は、先ほど見たとおり「最後の1台を市場に出した日」からのカウントです。
一方で、シャープのAQUOS sense10の製品ページには、セキュリティアップデートの期間は「発売されたタイミングから起算しての更新期間」と明記されていますし、FCNTのarrows Alphaの発表資料にも、発売日から5年間という趣旨の注釈が付いています。
数字は同じでも、スタート地点がまったく違うのです。
具体的に計算してみると2年近い差が出る
たとえば、ある機種が発売から2年間EU市場へ投入され続けたとします。
規則の5年間という期間は最後の1台の市場投入終了から数えるため、その期間は発売日から数えると7年後まで届く計算になります。
もっとも、条文には「更新を提供する場合には」という条件があるため、「必ず7年間、新しい更新が作られ続ける」とまでは断定できません。
これに対して「発売から5年」の機種を発売1年半後に買った人は、手元で使える保証期間が残り3年半しかありません。
発売から時間がたって値下がりした機種を選ぶのは賢い買い方に見えますが、更新期間という視点では、買った瞬間にすでに寿命が削られていることになります。
国内メーカーの注釈に「購入時期によって回数や期間が変わる」と小さく書かれているのは、まさにこのことを指しています。
型落ちモデルを検討するときは、値段だけでなく「発売日はいつだったか」を確認する習慣をつけておくと失敗が減るはずです。
国内メーカー各社の対応を公式情報で確認する
では、日本のメーカーは実際にどう動いているのでしょうか。
ここで大事なのは、EUの規則が直接かかるのは「EUで売る機種」だけだという点です。
欧州でスマホを販売しているソニーと、国内やアジアが中心のシャープ・FCNTとでは、置かれた立場がそもそも異なります。

ソニー:規制の適用と同じ年に「3年→6年」へ跳ね上がった
いちばん変化がわかりやすいのがソニーです。ソニーの英国法人は、Xperia各機種のセキュリティ更新がいつ終わるかを一覧表で公開しており、これを世代順に並べると次のようになります。
| 機種(発売年) | セキュリティ更新の終了時期 | 発売からのおおよその年数 |
|---|---|---|
| Xperia 1 V(2023年) | 2026年5月 | 約3年 |
| Xperia 1 VI(2024年) | 2028年4月 | 約4年 |
| Xperia 1 VII(2025年) | 2031年4月 | 約6年 |
| Xperia 1 VIII(2026年) | 2032年4月 | 約6年 |
出典:Sony UK「How long will my Sony product receive security updates?」(2026年9月21日確認)。年数は発売時期から筆者が概算したものです。
2024年モデルまでは1年ずつの小幅な延長だったのに、EU規則の適用が始まった2025年のモデルでいきなり6年へ跳ね上がっています。
ミドルレンジのXperia 10 VIIも同じく2031年8月までとなっており、OSバージョンアップも4回に増えました。
「6年」という半端な数字の理由を考えてみる
ここからは筆者の推測です。6年という数字は「販売期間およそ1年+販売終了後5年」と考えると辻褄は合います。
Xperiaはほぼ1年ごとに後継機が出るため、EU規則の期間を発売時点から見た結果として6年になった可能性は考えられます。
ただし、ソニー自身は「EU規則への対応として6年にした」とは説明していません。
確実に言えるのは、日本向けのXperia 1 VIIや1 VIIIにも最大4回のOSバージョンアップと6年間のセキュリティアップデートが公式に設定されていることです。
シャープ:現行AQUOSの公式展開地域にEUを含めない中、規制より先に5年を掲げた
シャープは対照的で、現行のAQUOS sense10は日本のほか台湾、インドネシア、シンガポールでの展開が公式に案内されており、EU市場は含まれていません。
こうしたEU規則の直接適用を受ける販売地域ではないモデルでも、2023年秋に発売されたAQUOS sense8の時点で、すでに「OSバージョンアップ最大3回・セキュリティアップデート5年」を打ち出していました。
EUの適用開始より1年半以上も前のことです。
これは少なくともEU規則への直接対応とは考えにくく、メーカー間でソフトウェアの長期サポート競争が強まる流れの中で見る方が自然です。
GoogleはPixel 8以降で7年間、サムスンもGalaxy S24シリーズで7年間のセキュリティ更新を掲げています。ただし、シャープ自身が他社への対抗策として5年にしたと説明しているわけではありません。
買い替えサイクルが長くなる中では、スタンダードモデルのsenseシリーズにも長期サポートが用意されている意味は大きいと感じます。
現行のAQUOS sense10も同じ「最大3回・5年」を維持しています。

FCNT:バッテリー寿命とセットで「5年使える」を設計
Lenovo Group Limitedの出資を受けて再出発したFCNTも、2025年8月発売のarrows Alphaで「OSバージョンアップ3回・セキュリティ更新5年」を掲げ、2026年8月27日に発売されたarrows Alpha2でも同水準を続けています。
興味深いのは、Alpha2でメーカーの充放電シミュレーションに基づき「約4年後も初期容量の80%を維持するバッテリー」を同時にうたっていることです。
ソフトだけ5年もっても電池が2年でへたっては意味がない、という発想は、更新と電池耐久を同じ規則に並べたEUの考え方とよく似ています。
FCNTのこのモデルはEU規則への対応として発表されたものではありませんが、結果として「EU的な長寿命設計」をなぞる形になっているのは面白いところです。
京セラ:TORQUE G07では「OS3回・セキュリティ4年」を明示
個人向けスマホを縮小し、法人向けへのシフトを進めてきた京セラですが、2026年3月発売のTORQUE G07では「3回のOSバージョンアップと発売から4年間のセキュリティパッチ」と、個人向け製品ページにも更新期間を明記しています。
また法人向け端末については、機種ごとにセキュリティ更新の終了予定時期や更新頻度を一覧で公開しています。
ソニーやシャープ、FCNTと比べると期間は異なりますが、「年数を公表していないメーカー」という位置づけではなくなっています。
では日本の法律はどうなっているのか
日本には更新期間を義務づける法律がない
2026年9月時点で、日本にはスマホのOSアップデート期間を義務づける法律はありません。
名前が似ているので混同されがちですが、2025年12月に全面施行されたいわゆる「スマホ新法」(スマホソフトウェア競争促進法)は、アプリストアや決済の競争に関する法律で、更新期間とは無関係です。

セキュリティラベル「JC-STAR」もスマホは対象外
もう一つ、あまり知られていない事実があります。
経済産業省とIPAが2025年3月に始めたIoT製品のセキュリティラベル制度「JC-STAR」は、日本版のセキュリティ認証として注目されていますが、IPAの説明資料には「購入後にセキュリティ機能を追加することができる汎用のPC、スマートフォン、タブレット等は対象外」と書かれています。
対象カテゴリーだから自動的にラベルが付くわけではなく、JC-STARの適合基準を満たしラベルを取得した製品だけです。
英国方式という「もう一つの道」
EUのように更新期間や提供条件に法的なルールを設ける以外の方法もあります。
英国のPSTI法(2024年4月施行)は、最低年数は定めない代わりに、メーカーに「いつまでセキュリティ更新を提供するか」の公表を義務づけました。
この制度への対応として、AppleはiPhone 15 Pro Maxについて「最初の供給日から最低5年」と公式文書に明記していますし、先ほどのソニーの一覧表も、こうした開示の流れのなかで公開されているものです。
年数を縛るEU、開示を義務づける英国、そしてメーカーの自主性に任せる日本。三者を並べると、日本の消費者がいま頼れるのは、各社が製品ページの隅に載せている注釈だけだということがよくわかります。
個人的には、いきなりEU並みの義務化までいかなくても、英国のように「終了時期の明示」だけでも制度化されれば、機種選びはずいぶん楽になるのではないかと思います。
「義務化」にも抜け道の指摘がある
EUの規則が万能かといえば、そうとも言い切れません。条文の書き出しは「メーカーがOSの更新を提供する場合には(if they provide)」となっており、ベルギーのITメディアITdailyなどは、この一文を根拠に「更新を出すこと自体は義務づけていないと読める」と指摘しています。
実際にモトローラは対象を狭くとらえる解釈をとっていると報じられており、運用がどう固まるかはまだ見通せない部分が残っています。
さらにEUでは、サイバーレジリエンス法という別の法律があり、主要な規定は2027年12月11日から適用されます。
こちらはセキュリティの観点から、デジタル製品に原則最低5年のサポート期間を求める内容です。
ただし、想定される製品の使用期間が5年未満の場合には、その使用期間に合わせる例外があります。
環境とセキュリティの両側から網がかかることで、抜け道は徐々に狭まっていくと考えられます。
まとめ:買う前に確認したい3つのこと
EUの義務化は日本に直接の効力を持ちませんが、欧州で売るソニーは規制と歩調を合わせて6年へ、国内中心のシャープとFCNTは競争のなかで自主的に5年へと、それぞれ別の理由で同じ方向に進んできました。
法律がない日本では、最後は私たち自身が表示を読み解くしかありません。
確認したいのは、セキュリティ更新が「何年」かという数字、その起算点が「発売日から」なのか、そして検討中の機種の発売日がいつだったのか、という3点です。
この3つを見るだけで、そのスマホを実際にあと何年安心して使えるのかが計算できます。
値札の横にその答えが最初から書いてある、そんな売り場が日本でも当たり前になってほしいものです。
■参考にした一次資料・公式情報
- 欧州委員会規則(EU)2023/1670(EUR-Lex)附属書II
- 欧州委員会「Smartphones and Tablets」製品情報ページ
- Sony UK「How long will my Sony product receive security updates?」
- シャープ「AQUOS sense10の特長」製品ページ
- FCNT ニュースリリース(arrows Alpha/arrows Alpha2 F-51G)
- IPA「JC-STAR制度に対するよくある質問について」
- ITdaily「5 Years of OS Updates for Smartphones: Mandated by the EU, but not Really?」
- MacRumors「Apple Commits to at Least Five Years of iPhone Security Updates」
